ACTA+ JOURNEY

【インタビュー記事】植物と廃材で語る、環境へのメッセージ。渡部芳奈子さんのいけばなアート

【インタビュー記事】植物と廃材で語る、環境へのメッセージ。渡部芳奈子さんのいけばなアート

2025年4月、東京・玉川高島屋で開催された『ACTA+』のポップアップストアで、注目を集めた作品がありました。 約20個のじょうろを使い、そこに植物を添えて「廃棄物から命が生まれる」イメージを表現したインスタレーション。制作したのは、いけばなと、植物以外の「異質素材」を用いた立体作品を手がけるアーティスト・渡部芳奈子さんです。 会場では、ある親子が作品の前で足を止め、「すごい、お花みたいできれいですね」と感想を口にしながら、「この人が作ったんだよ」と母親が渡部さんを紹介する場面も。子どもが「学校で環境問題の勉強をしているんです」と話すと、渡部さんは作品の意図を伝え、親子は熱心に耳を傾けていました。 廃棄物に込められた想いや、環境問題へのメッセージが作品を通じて伝わる瞬間でした。 今回は、渡部さんの作品制作の背景や『ACTA+』との出会い、そして今後の活動についてお話を伺いました。 「花を生けるだけでは物足りない」という想いから、華道の“枠”を超える作品づくりへ  ――まずは、簡単に自己紹介をお願いします。 渡部芳奈子さん:私は普段、会社員のエンジニアをしています。大学では理系で数学を専攻し、研究室では、音声合成やメディアアートを学んでいました。もともとアートに興味があり、メディアアートを作りたくて理系の大学に進学したんです。 ――子どもの頃からアートやものづくりが好きだったのでしょうか。 渡部芳奈子さん:そうですね。子どもの頃からモノを作るのが好きでした。 当時はアイロンビーズなどが流行っていて、そういったものを夢中で作っていたようです。手を動かして何かを作るのが、好きだったんだと思います。 また、自宅には「ガラクタボックス」と呼んでいた箱があって、プレゼントの包装紙やおもしろい形の素材をその箱に集めていたんです。折ったり貼ったりして、自分なりに遊んでいました。 ――その遊びが、ものづくりの原体験になっていたのかもしれませんね。では、華道はいつ始めたのでしょうか。 渡部芳奈子さん:実は華道との出会いは社会人になってからです。勤務先の部活動で華道を習い始めました。実際に始めてみたら、想像以上におもしろくて、夢中になりました。 ただ、続けていくうちに「きれいに花を生けるだけでは物足りないな」と感じるようになって。 いけばなの展示では、タイトルを付けないこともあるのですが、もっと表現の幅を増やしたいと思い、次第に社外の華道の展示にも参加するようになりました。たとえば、環境への問題意識を作品を通して伝えられたらなと、コンセプチュアルアート展へ環境問題をテーマにした作品を出展しました。 ――では、『ACTA+』との出会いを教えてください。 渡部芳奈子さん:2024年に開催された『ACTA+』の公募展に応募したのが最初のきっかけです。結果的には落選してしまったのですが、その後『ACTA+』の方がInstagramをフォローしてくださって。それが、出会いの始まりでしたね。 卵パックもじょうろも、アートに変える。「草月流いけばな」と渡部さんの制作プロセス ――渡部さんの作品には、植物以外の素材も多く使われていますよね。お花を使わないことは、いけばなの世界ではご法度ではないのでしょうか? 渡部芳奈子さん:たしかに、ご法度の流派もあるかもしれません。でも、私が習っている「草月流(そうげつりゅう)」という流派では、植物以外の素材である「異質素材」を用いることも取り入れられているんです。 実際、草月流の教科書にも「異質素材の構成」という植物以外の異質素材だけを使って表現するカリキュラムがあって、卵パックや緩衝材のような身近な素材を使って作品を作ります。 ――異素材だけで生けるというのは、まるで現代アートのようですね。 渡部芳奈子さん:そうですね。草月流のいけばなは、私にとって「立体造形」に近い感覚です。彫刻のようなイメージで捉えています。そこが、私がおもしろいと感じた理由のひとつかもしれません。 玉川高島屋で発表した作品『141.3』 ――制作のプロセスについても教えてください。インスピレーションで作るのか、それとも最初から完成イメージがあるのでしょうか? 渡部芳奈子さん:どちらのパターンもありますね。 コンセプトから作品を考える場合は、「何を伝えたいのか、それをどの素材で表現するのか」を自分でブレストしていきます。1〜2か月ぐらい毎日考えていると、素材のアイデアが出てくることがあります。先にコンセプトを決めてから、芋づる式に素材が決まっていく流れですね。 たとえば今回の作品、「じょうろを約20個を使用したインスタレーション」を制作したときは、まず「環境問題をテーマにしたい」と考え、「水」をテーマに決めました。それから、「オレンジを育てるのに必要な水の量を表すように、じょうろを積み上げたらおもしろいかな」と思いついたんです。 ――ちなみに、今回の作品には植物(かすみ草)も使われていましたね。どのような意味が込められているのでしょうか?...

【インタビュー記事】植物と廃材で語る、環境へのメッセージ。渡部芳奈子さんのいけばなアート

2025年4月、東京・玉川高島屋で開催された『ACTA+』のポップアップストアで、注目を集めた作品がありました。 約20個のじょうろを使い、そこに植物を添えて「廃棄物から命が生まれる」イメージを表現したインスタレーション。制作したのは、いけばなと、植物以外の「異質素材」を用いた立体作品を手がけるアーティスト・渡部芳奈子さんです。 会場では、ある親子が作品の前で足を止め、「すごい、お花みたいできれいですね」と感想を口にしながら、「この人が作ったんだよ」と母親が渡部さんを紹介する場面も。子どもが「学校で環境問題の勉強をしているんです」と話すと、渡部さんは作品の意図を伝え、親子は熱心に耳を傾けていました。 廃棄物に込められた想いや、環境問題へのメッセージが作品を通じて伝わる瞬間でした。 今回は、渡部さんの作品制作の背景や『ACTA+』との出会い、そして今後の活動についてお話を伺いました。 「花を生けるだけでは物足りない」という想いから、華道の“枠”を超える作品づくりへ  ――まずは、簡単に自己紹介をお願いします。 渡部芳奈子さん:私は普段、会社員のエンジニアをしています。大学では理系で数学を専攻し、研究室では、音声合成やメディアアートを学んでいました。もともとアートに興味があり、メディアアートを作りたくて理系の大学に進学したんです。 ――子どもの頃からアートやものづくりが好きだったのでしょうか。 渡部芳奈子さん:そうですね。子どもの頃からモノを作るのが好きでした。 当時はアイロンビーズなどが流行っていて、そういったものを夢中で作っていたようです。手を動かして何かを作るのが、好きだったんだと思います。 また、自宅には「ガラクタボックス」と呼んでいた箱があって、プレゼントの包装紙やおもしろい形の素材をその箱に集めていたんです。折ったり貼ったりして、自分なりに遊んでいました。 ――その遊びが、ものづくりの原体験になっていたのかもしれませんね。では、華道はいつ始めたのでしょうか。 渡部芳奈子さん:実は華道との出会いは社会人になってからです。勤務先の部活動で華道を習い始めました。実際に始めてみたら、想像以上におもしろくて、夢中になりました。 ただ、続けていくうちに「きれいに花を生けるだけでは物足りないな」と感じるようになって。 いけばなの展示では、タイトルを付けないこともあるのですが、もっと表現の幅を増やしたいと思い、次第に社外の華道の展示にも参加するようになりました。たとえば、環境への問題意識を作品を通して伝えられたらなと、コンセプチュアルアート展へ環境問題をテーマにした作品を出展しました。 ――では、『ACTA+』との出会いを教えてください。 渡部芳奈子さん:2024年に開催された『ACTA+』の公募展に応募したのが最初のきっかけです。結果的には落選してしまったのですが、その後『ACTA+』の方がInstagramをフォローしてくださって。それが、出会いの始まりでしたね。 卵パックもじょうろも、アートに変える。「草月流いけばな」と渡部さんの制作プロセス ――渡部さんの作品には、植物以外の素材も多く使われていますよね。お花を使わないことは、いけばなの世界ではご法度ではないのでしょうか? 渡部芳奈子さん:たしかに、ご法度の流派もあるかもしれません。でも、私が習っている「草月流(そうげつりゅう)」という流派では、植物以外の素材である「異質素材」を用いることも取り入れられているんです。 実際、草月流の教科書にも「異質素材の構成」という植物以外の異質素材だけを使って表現するカリキュラムがあって、卵パックや緩衝材のような身近な素材を使って作品を作ります。 ――異素材だけで生けるというのは、まるで現代アートのようですね。 渡部芳奈子さん:そうですね。草月流のいけばなは、私にとって「立体造形」に近い感覚です。彫刻のようなイメージで捉えています。そこが、私がおもしろいと感じた理由のひとつかもしれません。 玉川高島屋で発表した作品『141.3』 ――制作のプロセスについても教えてください。インスピレーションで作るのか、それとも最初から完成イメージがあるのでしょうか? 渡部芳奈子さん:どちらのパターンもありますね。 コンセプトから作品を考える場合は、「何を伝えたいのか、それをどの素材で表現するのか」を自分でブレストしていきます。1〜2か月ぐらい毎日考えていると、素材のアイデアが出てくることがあります。先にコンセプトを決めてから、芋づる式に素材が決まっていく流れですね。 たとえば今回の作品、「じょうろを約20個を使用したインスタレーション」を制作したときは、まず「環境問題をテーマにしたい」と考え、「水」をテーマに決めました。それから、「オレンジを育てるのに必要な水の量を表すように、じょうろを積み上げたらおもしろいかな」と思いついたんです。 ――ちなみに、今回の作品には植物(かすみ草)も使われていましたね。どのような意味が込められているのでしょうか?...

【インタビュー記事】漁網の作品が問いかける、見えにくい海の環境問題

【インタビュー記事】漁網の作品が問いかける、見えにくい海の環境問題

「海のごみ」と聞いて、まず思い浮かべるのは、ペットボトルやレジ袋、ストローなどのプラスチックごみではないでしょうか。しかし、海に漂うごみはそれだけではありません。 海洋ごみの中で特に問題とされているのが「漁網(魚を捕まえる網)」です。 WWF ジャパンの調査(※)では、太平洋ゴミベルト(GPGP)に存在する直径5cm以上の漂流プラスチックの質量のうち、約46%が漁網と報告されています。さらに、回収された75〜86%が漁具であることも明らかになっています。 今回は、廃棄された漁網を用いたアート制作を行う『ACTA+』アーティスト・しばたみなみさんに、漁網が抱える課題や見えにくい海の環境問題の現実、私たちが環境のためにできることについてのお話を伺いました。 ※参考:『日本における ゴーストギア対策の 現在地』|WWF ジャパン 拾えないごみ「漁網」はなぜ海に?回収現場の現実 ――そもそも、なぜ海に漁網があるのでしょうか? しばたみなみさん:漁をしている際に、不可抗力で海に出てしまっているケースが多いと聞いています。 例えば、漁の最中に網が「根がかり」して、海底の岩などに引っかかってちぎれてしまったり、破損してそのまま流出してしまったり。釣りのルアーが引っかかり外れないという感覚に近いですね。 しかも漁網はサイズが大きいので、海に浮くというより海の底に沈んでしまうことが多いんです。だから目立たず、回収が難しくて問題が静かに進行していくのです。福岡市の海岸でも、砂に埋もれてしまってまったく引き抜けないロープや網があります。 ――ビニール袋などの小さなごみは海岸で見かけることがありますが、漁網ってあまり見かけないのでイメージしづらいかもしれませんね。 しばたみなみさん:そうですよね。でも実際には、とても深刻な環境問題になっています。漁網がプール一杯分ほど落ちているような状況もあるんです。 例えば長崎県・対馬の海岸では、砂浜一帯が緑色の漁網やロープで埋め尽くされていました。足元に落ちているというより、絡まり合って大きくなりすぎていて、「ちょっと拾って片づけよう」なんていうレベルではありませんでしたね。 さらに厄介なのは、放置された漁網が船のスクリューに巻き付いて事故につながることもあるという点です。最悪の場合、船が壊れて沈んでしまうリスクもあるので、漁に出る前に漁師さんたちが自ら網を取り除いていることもあると聞いています。 ――それだけ大量に海へ出ている漁網を、漁師さんたちはどうやって回収しているんでしょうか? しばたみなみさん:私自身は現場に同行したことはないのですが、話を聞く限りでは、漁に出る前にスクリューに絡まないよう、浅瀬に潜って網の状態を確認したり、引っ掛けて持ち上げたりするそうです。もし、漁網の破片が自分たちの網に入り込んでしまうと、魚に傷がつき商品にならなかったり、網が使えなくなってしまったりすることもあるので、チェックは大変だと思います。 しかも、そういった作業はほとんどが「自費」で行われているんです。自分たちの安全のためとはいえ、当然のように対応している事実は、もっと知られるべきだと思います。これは本当に大きな負担ですよね。 漁網がストラップに変身。見えない海の課題を作品で可視化 ――しばたさんは、そうした海の見えない問題を、日常に寄り添う形で伝えるために、漁網を使ったプロダクト制作にも取り組んでいますよね? しばたみなみさん:はい。漁網を使ったストラップなどのアイテムを作っているのですが、アートというより「使って楽しんでもらえること」を前提に制作しています。 デザインとしての可愛さや使いやすさから手に取ってもらい、「これ、漁網からできているんだ」と気づいてもらえたら嬉しいなと思っていて。そこから、海にある見えにくい問題や背景にも関心を持ってもらえたらと思い、漁網にフィーチャーして制作しています。 出典:ニチモウ株式会社   ――プロダクトの素材となる漁網は、実際に海から回収されたものなのでしょうか? しばたみなみさん:いえ、プロダクトに使用しているのは、漁網メーカーのニチモウ株式会社から提供していただいている、製造過程で出た端材です。日常的に身に着けるものなので、衛生面などの理由から漂着物を使うのは難しいからです。 ニチモウ株式会社では、漁網のリサイクル技術にも取り組まれていて、端材も無駄にされているわけではありませんが、取り組みの一環として私のもとに素材を提供してくださっています。...

【インタビュー記事】漁網の作品が問いかける、見えにくい海の環境問題

「海のごみ」と聞いて、まず思い浮かべるのは、ペットボトルやレジ袋、ストローなどのプラスチックごみではないでしょうか。しかし、海に漂うごみはそれだけではありません。 海洋ごみの中で特に問題とされているのが「漁網(魚を捕まえる網)」です。 WWF ジャパンの調査(※)では、太平洋ゴミベルト(GPGP)に存在する直径5cm以上の漂流プラスチックの質量のうち、約46%が漁網と報告されています。さらに、回収された75〜86%が漁具であることも明らかになっています。 今回は、廃棄された漁網を用いたアート制作を行う『ACTA+』アーティスト・しばたみなみさんに、漁網が抱える課題や見えにくい海の環境問題の現実、私たちが環境のためにできることについてのお話を伺いました。 ※参考:『日本における ゴーストギア対策の 現在地』|WWF ジャパン 拾えないごみ「漁網」はなぜ海に?回収現場の現実 ――そもそも、なぜ海に漁網があるのでしょうか? しばたみなみさん:漁をしている際に、不可抗力で海に出てしまっているケースが多いと聞いています。 例えば、漁の最中に網が「根がかり」して、海底の岩などに引っかかってちぎれてしまったり、破損してそのまま流出してしまったり。釣りのルアーが引っかかり外れないという感覚に近いですね。 しかも漁網はサイズが大きいので、海に浮くというより海の底に沈んでしまうことが多いんです。だから目立たず、回収が難しくて問題が静かに進行していくのです。福岡市の海岸でも、砂に埋もれてしまってまったく引き抜けないロープや網があります。 ――ビニール袋などの小さなごみは海岸で見かけることがありますが、漁網ってあまり見かけないのでイメージしづらいかもしれませんね。 しばたみなみさん:そうですよね。でも実際には、とても深刻な環境問題になっています。漁網がプール一杯分ほど落ちているような状況もあるんです。 例えば長崎県・対馬の海岸では、砂浜一帯が緑色の漁網やロープで埋め尽くされていました。足元に落ちているというより、絡まり合って大きくなりすぎていて、「ちょっと拾って片づけよう」なんていうレベルではありませんでしたね。 さらに厄介なのは、放置された漁網が船のスクリューに巻き付いて事故につながることもあるという点です。最悪の場合、船が壊れて沈んでしまうリスクもあるので、漁に出る前に漁師さんたちが自ら網を取り除いていることもあると聞いています。 ――それだけ大量に海へ出ている漁網を、漁師さんたちはどうやって回収しているんでしょうか? しばたみなみさん:私自身は現場に同行したことはないのですが、話を聞く限りでは、漁に出る前にスクリューに絡まないよう、浅瀬に潜って網の状態を確認したり、引っ掛けて持ち上げたりするそうです。もし、漁網の破片が自分たちの網に入り込んでしまうと、魚に傷がつき商品にならなかったり、網が使えなくなってしまったりすることもあるので、チェックは大変だと思います。 しかも、そういった作業はほとんどが「自費」で行われているんです。自分たちの安全のためとはいえ、当然のように対応している事実は、もっと知られるべきだと思います。これは本当に大きな負担ですよね。 漁網がストラップに変身。見えない海の課題を作品で可視化 ――しばたさんは、そうした海の見えない問題を、日常に寄り添う形で伝えるために、漁網を使ったプロダクト制作にも取り組んでいますよね? しばたみなみさん:はい。漁網を使ったストラップなどのアイテムを作っているのですが、アートというより「使って楽しんでもらえること」を前提に制作しています。 デザインとしての可愛さや使いやすさから手に取ってもらい、「これ、漁網からできているんだ」と気づいてもらえたら嬉しいなと思っていて。そこから、海にある見えにくい問題や背景にも関心を持ってもらえたらと思い、漁網にフィーチャーして制作しています。 出典:ニチモウ株式会社   ――プロダクトの素材となる漁網は、実際に海から回収されたものなのでしょうか? しばたみなみさん:いえ、プロダクトに使用しているのは、漁網メーカーのニチモウ株式会社から提供していただいている、製造過程で出た端材です。日常的に身に着けるものなので、衛生面などの理由から漂着物を使うのは難しいからです。 ニチモウ株式会社では、漁網のリサイクル技術にも取り組まれていて、端材も無駄にされているわけではありませんが、取り組みの一環として私のもとに素材を提供してくださっています。...

【インタビュー】問い直すことで見えてくる世界。しばたみなみさんがアートで届ける視点

【インタビュー】問い直すことで見えてくる世界。しばたみなみさんがアートで届ける視点

『ACTA+』のアーティストの一人である、しばたみなみさんは、海辺に打ち上げられた漂着物を素材に、独自のアート作品やプロダクトを生み出しています。 建築設計の仕事を経てアーティストの道へと進んだしばたみなみさんは、漂着物に触れながら、そこに新たな意味や問いを見出してきました。現在は、学校や企業での講演やワークショップなど、教育や対話の場にも活動を広げています。 「アートは探求心を育てるもの」。そう語るしばたさんの創作には、素材へのまなざしと、見る人の心に問いを投げかけるようなメッセージが込められています。 今回は、しばたみなみさんが歩んできた道のりとアートに込めた想い、そしてこれからのビジョンについて伺いました。   建築から「ものづくり」へ。好きな「描くこと」をエネルギーの真ん中に置いてみた  ――まずは、簡単に自己紹介をお願いします。 しばたみなみさん:私は工業高校の建築科を卒業後、設計事務所に就職し、主にマンションの設計を5年間担当していました。いわゆる「箱づくり(住宅設計)」に携わり、インテリアの勉強を進める中で、空間を構成する「ものづくり」に興味が向きはじめたんです。「自分でもものづくりをやってみたい」と思うようになりました。 身近にアーティストとか絵を描いている友人がいたこともあり、展示の手伝いをしているうちに「自分も描いてみようかな」と感じるようになって。そこから夢中になり「自分の手で何かを生み出す時間」にもっとエネルギーを注いでみたい、という気持ちが強くなっていったんです。 「アーティストとして生きていこう」と腹をくくったわけではありませんが、「仕事にかけていたエネルギーを自分に向けてみたらどうなるのだろう」というシンプルな好奇心に従って、仕事を一度辞めることにしました。 現在は、『ACTA+』のアーティストとしても活動しています。 ――もともと、創作活動には親しみがあったのでしょうか? しばたみなみさん:はい。子どもの頃から、何かを作ることが好きでした。勉強は得意なタイプではなかったんですが、絵を描いたり陶芸をしたりする時間は大変楽しかったですね。また、母がよく美術館に連れていってくれていたこともあって、アートやものづくりは身近にありました。 ビーチクリーンで知った「当たり前ではない風景」。漂着物との出会いが創作の原点に  ――海の漂着物を素材に使おうと思ったのは、どのようなきっかけでしょうか? しばたみなみさん:最初のきっかけは、地域のビーチクリーンイベントのポスターを描かせてもらったことでした。そのポスター制作を通じて、実際に現地にも足を運び、福岡・今津エリアで地域の方々と一緒に浜辺の清掃をしたんです。 そこで強く感じたのは、「海がきれいなのは当たり前ではない」ということ。日々誰かが海を掃除してくれていたのだな、と気づいたんです。 この気づきをどう伝えたらいいか悩みました。当時、私の表現手段は絵を描くことだったのですが、絵を描くだけでは伝えきれないような気がして。そのときふと、「自分で拾った海のごみや漂着物を使って作品にしたら、もっとダイレクトに伝えられるかもしれない」と感じたんです。 「ごみといっても、まだ使える」と思えたことが、現在のアート作品へとつながっていきました。 ――実際に、海にはどのような漂着物があるのでしょうか? しばたみなみさん:漁具やポリタンク、生活廃材、さらに冷蔵庫のような大型の生活用品が落ちていたこともありました。地域によって漂着物はまったく違いますね。  私は基本、作業場のある今津を拠点に、周辺地域や市内西側の海岸を定期的に回っています。また、仕事やイベントで訪れた対馬や沖縄などの離島でも、その地域特有の漂着物を拾って持ち帰ることもあります。「この島でしか出会えなかったかもしれない」と思うと、一期一会だなと感じますね。 「環境活動家」ではなくアーティスト。漂着物がくれる問いと創作の楽しさを届けたい  ――海の漂着物を使った創作活動は、環境問題と密接に見られがちですが、しばたさんご自身はどのようなスタンスで活動されているのでしょうか? しばたみなみさん:よく「環境活動家なのですね」といわれることがあるのですが、実は環境活動家ではなく、アーティストとして活動しています。最初は「この漂着物、なんだろう?」「これを他者にも伝えたい」といった素朴な問いや好奇心が原点でした。作品づくりを通じて、社会との接点が少しずつ生まれていた、という感覚ですね。 作品を通して、見た人が「どうしてこれが海に落ちていたんだろう?」「自分にも何かできることがあるかもしれない」と感じてくれたら、嬉しいなと思っています。 もちろん、自分の体験や現場での気づきは共有できることもあります。ただ、環境問題について深く学びたい人がいたら、専門家に話を聞いたり、自分で調べたりする手段があるとお伝えするようにしていますね。 ――ではまさに『ACTA+』が大切にしている、「アートから入る環境意識」を体現されているのですね。 しばたみなみさん:そうですね。単なる問題提起をするのではなく、「この素材と出会って、こんな形になった」という創作のプロセスや喜びも一緒に伝えられたらいいなと思っています。素材との出会いや作る楽しさも、作品の一部なのです。 素材に宿る想いをカタチに。企業とのコラボレーションで広がる表現 ...

【インタビュー】問い直すことで見えてくる世界。しばたみなみさんがアートで届ける視点

『ACTA+』のアーティストの一人である、しばたみなみさんは、海辺に打ち上げられた漂着物を素材に、独自のアート作品やプロダクトを生み出しています。 建築設計の仕事を経てアーティストの道へと進んだしばたみなみさんは、漂着物に触れながら、そこに新たな意味や問いを見出してきました。現在は、学校や企業での講演やワークショップなど、教育や対話の場にも活動を広げています。 「アートは探求心を育てるもの」。そう語るしばたさんの創作には、素材へのまなざしと、見る人の心に問いを投げかけるようなメッセージが込められています。 今回は、しばたみなみさんが歩んできた道のりとアートに込めた想い、そしてこれからのビジョンについて伺いました。   建築から「ものづくり」へ。好きな「描くこと」をエネルギーの真ん中に置いてみた  ――まずは、簡単に自己紹介をお願いします。 しばたみなみさん:私は工業高校の建築科を卒業後、設計事務所に就職し、主にマンションの設計を5年間担当していました。いわゆる「箱づくり(住宅設計)」に携わり、インテリアの勉強を進める中で、空間を構成する「ものづくり」に興味が向きはじめたんです。「自分でもものづくりをやってみたい」と思うようになりました。 身近にアーティストとか絵を描いている友人がいたこともあり、展示の手伝いをしているうちに「自分も描いてみようかな」と感じるようになって。そこから夢中になり「自分の手で何かを生み出す時間」にもっとエネルギーを注いでみたい、という気持ちが強くなっていったんです。 「アーティストとして生きていこう」と腹をくくったわけではありませんが、「仕事にかけていたエネルギーを自分に向けてみたらどうなるのだろう」というシンプルな好奇心に従って、仕事を一度辞めることにしました。 現在は、『ACTA+』のアーティストとしても活動しています。 ――もともと、創作活動には親しみがあったのでしょうか? しばたみなみさん:はい。子どもの頃から、何かを作ることが好きでした。勉強は得意なタイプではなかったんですが、絵を描いたり陶芸をしたりする時間は大変楽しかったですね。また、母がよく美術館に連れていってくれていたこともあって、アートやものづくりは身近にありました。 ビーチクリーンで知った「当たり前ではない風景」。漂着物との出会いが創作の原点に  ――海の漂着物を素材に使おうと思ったのは、どのようなきっかけでしょうか? しばたみなみさん:最初のきっかけは、地域のビーチクリーンイベントのポスターを描かせてもらったことでした。そのポスター制作を通じて、実際に現地にも足を運び、福岡・今津エリアで地域の方々と一緒に浜辺の清掃をしたんです。 そこで強く感じたのは、「海がきれいなのは当たり前ではない」ということ。日々誰かが海を掃除してくれていたのだな、と気づいたんです。 この気づきをどう伝えたらいいか悩みました。当時、私の表現手段は絵を描くことだったのですが、絵を描くだけでは伝えきれないような気がして。そのときふと、「自分で拾った海のごみや漂着物を使って作品にしたら、もっとダイレクトに伝えられるかもしれない」と感じたんです。 「ごみといっても、まだ使える」と思えたことが、現在のアート作品へとつながっていきました。 ――実際に、海にはどのような漂着物があるのでしょうか? しばたみなみさん:漁具やポリタンク、生活廃材、さらに冷蔵庫のような大型の生活用品が落ちていたこともありました。地域によって漂着物はまったく違いますね。  私は基本、作業場のある今津を拠点に、周辺地域や市内西側の海岸を定期的に回っています。また、仕事やイベントで訪れた対馬や沖縄などの離島でも、その地域特有の漂着物を拾って持ち帰ることもあります。「この島でしか出会えなかったかもしれない」と思うと、一期一会だなと感じますね。 「環境活動家」ではなくアーティスト。漂着物がくれる問いと創作の楽しさを届けたい  ――海の漂着物を使った創作活動は、環境問題と密接に見られがちですが、しばたさんご自身はどのようなスタンスで活動されているのでしょうか? しばたみなみさん:よく「環境活動家なのですね」といわれることがあるのですが、実は環境活動家ではなく、アーティストとして活動しています。最初は「この漂着物、なんだろう?」「これを他者にも伝えたい」といった素朴な問いや好奇心が原点でした。作品づくりを通じて、社会との接点が少しずつ生まれていた、という感覚ですね。 作品を通して、見た人が「どうしてこれが海に落ちていたんだろう?」「自分にも何かできることがあるかもしれない」と感じてくれたら、嬉しいなと思っています。 もちろん、自分の体験や現場での気づきは共有できることもあります。ただ、環境問題について深く学びたい人がいたら、専門家に話を聞いたり、自分で調べたりする手段があるとお伝えするようにしていますね。 ――ではまさに『ACTA+』が大切にしている、「アートから入る環境意識」を体現されているのですね。 しばたみなみさん:そうですね。単なる問題提起をするのではなく、「この素材と出会って、こんな形になった」という創作のプロセスや喜びも一緒に伝えられたらいいなと思っています。素材との出会いや作る楽しさも、作品の一部なのです。 素材に宿る想いをカタチに。企業とのコラボレーションで広がる表現 ...

【大阪・グランフロント大阪】『ACTA+』と無印良品が挑んだ、暮らしと環境をつなぐアート展の10日間

【大阪・グランフロント大阪】『ACTA+』と無印良品が挑んだ、暮らしと環境をつなぐアート展の10日間

無印良品とのコラボ企画は『ACTA+』の熱意への共感から生まれた 2025年7月19日(土)から27日(日)まで、無印良品グランフロント大阪店にて、『ACTA+(アクタプラス)』と無印良品によるコラボレーション企画展「暮らしの中の、ちいさな創造展 -『捨てる』が変わる10日間。-」が開催されました。 今回の企画は、アーティストによる作品の展示と販売、そして古着を活用したタペストリーを制作するワークショップの3つの要素で構成されました。 【『暮らしの中の、ちいさな創造展-「捨てる」が変わる10日間。-』開催概要】 ・会場:無印良品グランフロント大阪 4F Open MUJI・開催期間:2025年7月19日(土) ~ 27日(日) 【「サステナブルで自宅を彩る」廃棄物アート作品販売会 開催概要】 ・会場:無印良品グランフロント大阪 4F モデルルーム内・日程:①7月19日(土)~21日(月・祝)②7月25日(金)~27日(日) 【タペストリーワークショップ開催概要】・会場:無印良品グランフロント大阪 4F Open MUJI・開催期間:7月26日(土)・持参物:着なくなった洋服1着(表面に装飾品のない素材)・講師:aya kurata ※ビギナークラス・ミドルクラスの2部構成で実施 「もったいない」をアートに変える。地場産業の廃材が生み出す新しい価値 今回の企画展「暮らしの中の、ちいさな創造展 -『捨てる』が変わる10日間。-」では、無印良品から提供された商品の梱包材や緩衝材、大阪の地場産業から提供された廃材を素材とした、アート作品の展示と販売が行われました。 素材の提供には、地域の廃棄物活用に取り組む「STOQue(ストック)」を含む、大阪の企業5社が協力。普段は見過ごされがちな廃材を、5名のアーティストが再編集し、アートへと昇華させました。   企画展に参加したアーティスト(展示) ミルクぱくこ 寺口隼人 吉田琉平 chikako...

【大阪・グランフロント大阪】『ACTA+』と無印良品が挑んだ、暮らしと環境をつなぐアート展の10日間

無印良品とのコラボ企画は『ACTA+』の熱意への共感から生まれた 2025年7月19日(土)から27日(日)まで、無印良品グランフロント大阪店にて、『ACTA+(アクタプラス)』と無印良品によるコラボレーション企画展「暮らしの中の、ちいさな創造展 -『捨てる』が変わる10日間。-」が開催されました。 今回の企画は、アーティストによる作品の展示と販売、そして古着を活用したタペストリーを制作するワークショップの3つの要素で構成されました。 【『暮らしの中の、ちいさな創造展-「捨てる」が変わる10日間。-』開催概要】 ・会場:無印良品グランフロント大阪 4F Open MUJI・開催期間:2025年7月19日(土) ~ 27日(日) 【「サステナブルで自宅を彩る」廃棄物アート作品販売会 開催概要】 ・会場:無印良品グランフロント大阪 4F モデルルーム内・日程:①7月19日(土)~21日(月・祝)②7月25日(金)~27日(日) 【タペストリーワークショップ開催概要】・会場:無印良品グランフロント大阪 4F Open MUJI・開催期間:7月26日(土)・持参物:着なくなった洋服1着(表面に装飾品のない素材)・講師:aya kurata ※ビギナークラス・ミドルクラスの2部構成で実施 「もったいない」をアートに変える。地場産業の廃材が生み出す新しい価値 今回の企画展「暮らしの中の、ちいさな創造展 -『捨てる』が変わる10日間。-」では、無印良品から提供された商品の梱包材や緩衝材、大阪の地場産業から提供された廃材を素材とした、アート作品の展示と販売が行われました。 素材の提供には、地域の廃棄物活用に取り組む「STOQue(ストック)」を含む、大阪の企業5社が協力。普段は見過ごされがちな廃材を、5名のアーティストが再編集し、アートへと昇華させました。   企画展に参加したアーティスト(展示) ミルクぱくこ 寺口隼人 吉田琉平 chikako...

素材の“おもしろさ”を見出して。感覚と整理で価値を生む、西村卓さんの創作術

素材の“おもしろさ”を見出して。感覚と整理で価値を生む、西村卓さんの創作術

木彫からスタートし、透明樹脂や廃棄物などの異素材を組み合わせて、独自の表現を追求するアーティスト・西村卓さん。現在は『ACTA+』のアーティストとしても活動し、空間を彩る立体作品から日用品のような小物作品まで、幅広いアート作品を生み出しています。 「拾ったもの」や「もらったもの」といった偶然の素材との出会いをきっかけに、日常の物にひそむ“おもしろさ”をすくい上げる西村さんの感性は、企業と協働するワークショップにも活かされています。 今回は、西村さんが素材と出会い、表現を深めていった過程や制作の裏側にあるストーリーを伺いました。 木彫から廃棄物アートへ。公募をきっかけに『ACTA+』とつながる ――まずは、簡単に自己紹介をお願いします。 西村卓さん: 私は大学で彫刻を専攻し、その中でも木彫の研究室に所属していました。大学卒業後は大学教授の助手を務めながら、木を素材とした木彫の制作を続けていました。 ――その後、木材以外にも廃棄物を素材とした作品を手がけるようになりますが、『ACTA+』との出会いについて教えてください。 西村卓さん: 2023年に『ACTA+』の公募展に応募したことが、最初のきっかけです。たまたまInstagramで『ACTA+』の公募情報を見かけて、「今の自分の制作スタイルにも合いそうだな」と思い、応募したのです。当時ちょうど、廃棄物を使ったアート作品が少しずつ注目されてきていた時期でもありました。 結果的にグランプリは取れませんでしたが、最終審査まで進むことができました。それをきっかけに『ACTA+』とのつながりが生まれ、現在は『ACTA+』のアーティストとして活動しています。   美大進学は偶然?「思いつきの進学」から広がったアートの道 ――西村さんがアートの道に進んだきっかけを教えてください。 西村卓さん: 実は、子どもの頃から美術をやりたいという強い思いがあったわけではないんです。高校で進路を考えたとき「受験勉強をあまりせずに進学できそうだな」という理由で、美術系の専門学校を志望しました。 ただ、その話を親にしたときに「せっかくなら四年制大学にしてほしい」と言われて、美大を選ぶことにしたのです。私はそこまで深く考えていなかったんですが、親が「この子は美術の道に進みたいのだ」と思ったようで、私は「思いつきだった」とも言えなくなってしまって(笑)そのまま美大を目指し、一浪して入学しました。 ――現在は樹脂など木材以外の素材も使って創作されていますよね。現在の創作に影響を受けた経験があれば教えてください。 西村卓さん: 大学卒業後に教授の助手をしていたんですが、その時期に学生たちが透明樹脂を使って作品を作っているのを見て、「こうやって扱うのか」と初めて知ったんです。学生の制作をサポートしながら横で学んでいくような感覚でしたね。 そこから自分でも樹脂を試すようになって、作品の表現が広がっていきました。   「これ、おもしろいな」からはじまる創作。ワークショップも“ひとつの作品”として ――作品にはどのようなテーマやメッセージが込められていますか? 西村卓さん: 作品ごとに強いメッセージを込めているわけではなくて「これ、おもしろいな」という感覚を大事にしています。最初からコンセプトをしっかり立てて取り組むというよりは、素材に触れ、湧いてきたインスピレーションで手を動かすことが多いですね。 小物作品などはテーマやコンセプトは決めすぎず、アートと日用品の中間のような感覚で作っています。そういった作品にあまり強い意味や想いを込めすぎると、かえって重くなってしまう気がするので。 一方で、大きな立体作品や『ACTA+』で展示したような空間性のある作品については、ある程度コンセプトやテーマを考えて制作します。作品の規模や用途によって、制作のスタンスを少しずつ変えている感じですね。 ――作品の素材に「廃棄物」を使うようになったのはなぜでしょうか? 西村卓さん:...

素材の“おもしろさ”を見出して。感覚と整理で価値を生む、西村卓さんの創作術

木彫からスタートし、透明樹脂や廃棄物などの異素材を組み合わせて、独自の表現を追求するアーティスト・西村卓さん。現在は『ACTA+』のアーティストとしても活動し、空間を彩る立体作品から日用品のような小物作品まで、幅広いアート作品を生み出しています。 「拾ったもの」や「もらったもの」といった偶然の素材との出会いをきっかけに、日常の物にひそむ“おもしろさ”をすくい上げる西村さんの感性は、企業と協働するワークショップにも活かされています。 今回は、西村さんが素材と出会い、表現を深めていった過程や制作の裏側にあるストーリーを伺いました。 木彫から廃棄物アートへ。公募をきっかけに『ACTA+』とつながる ――まずは、簡単に自己紹介をお願いします。 西村卓さん: 私は大学で彫刻を専攻し、その中でも木彫の研究室に所属していました。大学卒業後は大学教授の助手を務めながら、木を素材とした木彫の制作を続けていました。 ――その後、木材以外にも廃棄物を素材とした作品を手がけるようになりますが、『ACTA+』との出会いについて教えてください。 西村卓さん: 2023年に『ACTA+』の公募展に応募したことが、最初のきっかけです。たまたまInstagramで『ACTA+』の公募情報を見かけて、「今の自分の制作スタイルにも合いそうだな」と思い、応募したのです。当時ちょうど、廃棄物を使ったアート作品が少しずつ注目されてきていた時期でもありました。 結果的にグランプリは取れませんでしたが、最終審査まで進むことができました。それをきっかけに『ACTA+』とのつながりが生まれ、現在は『ACTA+』のアーティストとして活動しています。   美大進学は偶然?「思いつきの進学」から広がったアートの道 ――西村さんがアートの道に進んだきっかけを教えてください。 西村卓さん: 実は、子どもの頃から美術をやりたいという強い思いがあったわけではないんです。高校で進路を考えたとき「受験勉強をあまりせずに進学できそうだな」という理由で、美術系の専門学校を志望しました。 ただ、その話を親にしたときに「せっかくなら四年制大学にしてほしい」と言われて、美大を選ぶことにしたのです。私はそこまで深く考えていなかったんですが、親が「この子は美術の道に進みたいのだ」と思ったようで、私は「思いつきだった」とも言えなくなってしまって(笑)そのまま美大を目指し、一浪して入学しました。 ――現在は樹脂など木材以外の素材も使って創作されていますよね。現在の創作に影響を受けた経験があれば教えてください。 西村卓さん: 大学卒業後に教授の助手をしていたんですが、その時期に学生たちが透明樹脂を使って作品を作っているのを見て、「こうやって扱うのか」と初めて知ったんです。学生の制作をサポートしながら横で学んでいくような感覚でしたね。 そこから自分でも樹脂を試すようになって、作品の表現が広がっていきました。   「これ、おもしろいな」からはじまる創作。ワークショップも“ひとつの作品”として ――作品にはどのようなテーマやメッセージが込められていますか? 西村卓さん: 作品ごとに強いメッセージを込めているわけではなくて「これ、おもしろいな」という感覚を大事にしています。最初からコンセプトをしっかり立てて取り組むというよりは、素材に触れ、湧いてきたインスピレーションで手を動かすことが多いですね。 小物作品などはテーマやコンセプトは決めすぎず、アートと日用品の中間のような感覚で作っています。そういった作品にあまり強い意味や想いを込めすぎると、かえって重くなってしまう気がするので。 一方で、大きな立体作品や『ACTA+』で展示したような空間性のある作品については、ある程度コンセプトやテーマを考えて制作します。作品の規模や用途によって、制作のスタンスを少しずつ変えている感じですね。 ――作品の素材に「廃棄物」を使うようになったのはなぜでしょうか? 西村卓さん:...

【インタビュー記事】紐の端から命を吹き込む。ファイバーアーティスト・aya kurataさんのストーリー

【インタビュー記事】紐の端から命を吹き込む。ファイバーアーティスト・aya kurataさんの...

ファイバーアーティスト・aya kurataさんは、ネイリストとして約10年間活動したのち、子育てによる休職をきっかけに植物と向き合う中で、「マクラメ」という表現に出会いました。現在は『ACTA+』のアーティストのひとりとしても活動しています。 制作で生まれる紐の“端材”や、風化してなお咲こうとする植物の姿など、日常や自然の中にある「終わり」と「始まり」のエネルギーに心を寄せ、「結び」を通してその世界を作品に表現しています。 捨てられるはずだった“端材”に新たな価値を吹き込む作品には、技法を超えた想いが込められています。 本記事では、aya kurataさんがマクラメに出会い、アーティストとして表現を深めていくまでのストーリーを伺いました。 子育てが転機に。植物が導いたマクラメとaya kurataさんの出会い ――まずは、aya kurataさんのこれまでの歩みを教えてください。 aya kurataさん: 私は現在、ファイバーアーティストとして活動しています。もともとはアート系のデザインを手がけるネイリストとして、約10年間活動していました。 子どもが生まれたことをきっかけに、ネイルの仕事をお休みし、その頃からもともと好きだった植物を自宅でたくさん育てるようになったのです。子どもに触れられないように、植物を壁や天井から吊るしたいと思ったときに出会ったのが、マクラメという技法でした。 当時は日本語でマクラメの情報がほとんどなかったので、海外の資料を頼りに独学で学び始めました。技術を身につけること自体が好きなので、自然とマクラメの技術を身につけました。 やがて、「自分でもマクラメを人に教えてみたい、魅力を広めてみたい」と思うようになり、マクラメ講師としての活動や、作品の出品にも携わるようになりました。ありがたいことに、NHKの番組などに出演させていただいたこともあります。 ――『ACTA+』との出会いを教えてください。 aya kurataさん: 最初のきっかけは、Instagramだったと思います。実際にやりとりをしたのは、1年か2年ほど前のことです。『ACTA+』のアワード情報自体は以前から目にしていましたが、お話しするのはそのときが初めてでした。 その中で、「義務じゃなくて憧れにしたい」という『ACTA+』のコンセプトに、大変共鳴したのです。 ちょうどその頃、端材を取り入れながら活動する中で、「自分はどうあるべきか」とアーティストとしての表現や立ち位置などを深く考え始めていた時期でもありました。 そんなときに出会った『ACTA+』の考え方が「これからどのような方向に進みたいのか」を見つめ直すきっかけになり、参加を決めました。   役目を終えた紐が、新たな作品を紡ぐ。“結び”に込める創作への想い ――マクラメの創作活動の中で、アップサイクル(再利用)をしようと思ったきっかけを教えてください。 aya kurataさん: マクラメの創作活動を続ける中で、どうしても出てきてしまう「切れ端」の存在に、ずっとモヤモヤを感じていたんです。マクラメは、ある程度の長さがないと結びにくく、短くなると「もう使えない」とされるのが常識だったんですね。 でも、そのたびに「捨てるために生んでいる」ような気がして、強い罪悪感がありました。...

【インタビュー記事】紐の端から命を吹き込む。ファイバーアーティスト・aya kurataさんの...

ファイバーアーティスト・aya kurataさんは、ネイリストとして約10年間活動したのち、子育てによる休職をきっかけに植物と向き合う中で、「マクラメ」という表現に出会いました。現在は『ACTA+』のアーティストのひとりとしても活動しています。 制作で生まれる紐の“端材”や、風化してなお咲こうとする植物の姿など、日常や自然の中にある「終わり」と「始まり」のエネルギーに心を寄せ、「結び」を通してその世界を作品に表現しています。 捨てられるはずだった“端材”に新たな価値を吹き込む作品には、技法を超えた想いが込められています。 本記事では、aya kurataさんがマクラメに出会い、アーティストとして表現を深めていくまでのストーリーを伺いました。 子育てが転機に。植物が導いたマクラメとaya kurataさんの出会い ――まずは、aya kurataさんのこれまでの歩みを教えてください。 aya kurataさん: 私は現在、ファイバーアーティストとして活動しています。もともとはアート系のデザインを手がけるネイリストとして、約10年間活動していました。 子どもが生まれたことをきっかけに、ネイルの仕事をお休みし、その頃からもともと好きだった植物を自宅でたくさん育てるようになったのです。子どもに触れられないように、植物を壁や天井から吊るしたいと思ったときに出会ったのが、マクラメという技法でした。 当時は日本語でマクラメの情報がほとんどなかったので、海外の資料を頼りに独学で学び始めました。技術を身につけること自体が好きなので、自然とマクラメの技術を身につけました。 やがて、「自分でもマクラメを人に教えてみたい、魅力を広めてみたい」と思うようになり、マクラメ講師としての活動や、作品の出品にも携わるようになりました。ありがたいことに、NHKの番組などに出演させていただいたこともあります。 ――『ACTA+』との出会いを教えてください。 aya kurataさん: 最初のきっかけは、Instagramだったと思います。実際にやりとりをしたのは、1年か2年ほど前のことです。『ACTA+』のアワード情報自体は以前から目にしていましたが、お話しするのはそのときが初めてでした。 その中で、「義務じゃなくて憧れにしたい」という『ACTA+』のコンセプトに、大変共鳴したのです。 ちょうどその頃、端材を取り入れながら活動する中で、「自分はどうあるべきか」とアーティストとしての表現や立ち位置などを深く考え始めていた時期でもありました。 そんなときに出会った『ACTA+』の考え方が「これからどのような方向に進みたいのか」を見つめ直すきっかけになり、参加を決めました。   役目を終えた紐が、新たな作品を紡ぐ。“結び”に込める創作への想い ――マクラメの創作活動の中で、アップサイクル(再利用)をしようと思ったきっかけを教えてください。 aya kurataさん: マクラメの創作活動を続ける中で、どうしても出てきてしまう「切れ端」の存在に、ずっとモヤモヤを感じていたんです。マクラメは、ある程度の長さがないと結びにくく、短くなると「もう使えない」とされるのが常識だったんですね。 でも、そのたびに「捨てるために生んでいる」ような気がして、強い罪悪感がありました。...