【インタビュー】問い直すことで見えてくる世界。しばたみなみさんがアートで届ける視点

【インタビュー】問い直すことで見えてくる世界。しばたみなみさんがアートで届ける視点

『ACTA+』のアーティストの一人である、しばたみなみさんは、海辺に打ち上げられた漂着物を素材に、独自のアート作品やプロダクトを生み出しています。

建築設計の仕事を経てアーティストの道へと進んだしばたみなみさんは、漂着物に触れながら、そこに新たな意味や問いを見出してきました。現在は、学校や企業での講演やワークショップなど、教育や対話の場にも活動を広げています。

「アートは探求心を育てるもの」。そう語るしばたさんの創作には、素材へのまなざしと、見る人の心に問いを投げかけるようなメッセージが込められています。

今回は、しばたみなみさんが歩んできた道のりとアートに込めた想い、そしてこれからのビジョンについて伺いました。

 

建築から「ものづくり」へ。好きな「描くこと」をエネルギーの真ん中に置いてみた 

――まずは、簡単に自己紹介をお願いします。

しばたみなみさん:
私は工業高校の建築科を卒業後、設計事務所に就職し、主にマンションの設計を5年間担当していました。いわゆる「箱づくり(住宅設計)」に携わり、インテリアの勉強を進める中で、空間を構成する「ものづくり」に興味が向きはじめたんです。「自分でもものづくりをやってみたい」と思うようになりました。

身近にアーティストとか絵を描いている友人がいたこともあり、展示の手伝いをしているうちに「自分も描いてみようかな」と感じるようになって。そこから夢中になり「自分の手で何かを生み出す時間」にもっとエネルギーを注いでみたい、という気持ちが強くなっていったんです。

「アーティストとして生きていこう」と腹をくくったわけではありませんが、「仕事にかけていたエネルギーを自分に向けてみたらどうなるのだろう」というシンプルな好奇心に従って、仕事を一度辞めることにしました。

現在は、『ACTA+』のアーティストとしても活動しています。

――もともと、創作活動には親しみがあったのでしょうか?

しばたみなみさん:
はい。子どもの頃から、何かを作ることが好きでした。勉強は得意なタイプではなかったんですが、絵を描いたり陶芸をしたりする時間は大変楽しかったですね。また、母がよく美術館に連れていってくれていたこともあって、アートやものづくりは身近にありました。

ビーチクリーンで知った「当たり前ではない風景」。漂着物との出会いが創作の原点に 

――海の漂着物を素材に使おうと思ったのは、どのようなきっかけでしょうか?

しばたみなみさん:最初のきっかけは、地域のビーチクリーンイベントのポスターを描かせてもらったことでした。そのポスター制作を通じて、実際に現地にも足を運び、福岡・今津エリアで地域の方々と一緒に浜辺の清掃をしたんです。

そこで強く感じたのは、「海がきれいなのは当たり前ではない」ということ。日々誰かが海を掃除してくれていたのだな、と気づいたんです。

この気づきをどう伝えたらいいか悩みました。当時、私の表現手段は絵を描くことだったのですが、絵を描くだけでは伝えきれないような気がして。そのときふと、「自分で拾った海のごみや漂着物を使って作品にしたら、もっとダイレクトに伝えられるかもしれない」と感じたんです。

「ごみといっても、まだ使える」と思えたことが、現在のアート作品へとつながっていきました。

――実際に、海にはどのような漂着物があるのでしょうか?

しばたみなみさん:漁具やポリタンク、生活廃材、さらに冷蔵庫のような大型の生活用品が落ちていたこともありました。地域によって漂着物はまったく違いますね。 

私は基本、作業場のある今津を拠点に、周辺地域や市内西側の海岸を定期的に回っています。また、仕事やイベントで訪れた対馬や沖縄などの離島でも、その地域特有の漂着物を拾って持ち帰ることもあります。「この島でしか出会えなかったかもしれない」と思うと、一期一会だなと感じますね。

「環境活動家」ではなくアーティスト。漂着物がくれる問いと創作の楽しさを届けたい 

――海の漂着物を使った創作活動は、環境問題と密接に見られがちですが、しばたさんご自身はどのようなスタンスで活動されているのでしょうか?

しばたみなみさん:
よく「環境活動家なのですね」といわれることがあるのですが、実は環境活動家ではなく、アーティストとして活動しています。最初は「この漂着物、なんだろう?」「これを他者にも伝えたい」といった素朴な問いや好奇心が原点でした。作品づくりを通じて、社会との接点が少しずつ生まれていた、という感覚ですね。

作品を通して、見た人が「どうしてこれが海に落ちていたんだろう?」「自分にも何かできることがあるかもしれない」と感じてくれたら、嬉しいなと思っています。

もちろん、自分の体験や現場での気づきは共有できることもあります。ただ、環境問題について深く学びたい人がいたら、専門家に話を聞いたり、自分で調べたりする手段があるとお伝えするようにしていますね。

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――ではまさに『ACTA+』が大切にしている、「アートから入る環境意識」を体現されているのですね。

しばたみなみさん:そうですね。単なる問題提起をするのではなく、「この素材と出会って、こんな形になった」という創作のプロセスや喜びも一緒に伝えられたらいいなと思っています。素材との出会いや作る楽しさも、作品の一部なのです。

素材に宿る想いをカタチに。企業とのコラボレーションで広がる表現 

――これまでの作品では海の漂着物を素材にされてきたとのことですが、近年は企業との取り組みも増えているそうですね。

しばたみなみさん:
はい。日常使いできるプロダクトやイベント向けの制作では、海で拾った漂着物ではなく、企業から提供される廃材を使います。例えば、漁網やロープの端材、製品にならなかったパーツなどですね。

ある大型の展示作品では、神奈川県のしらす漁で使われていた魚網を譲り受けて制作しました。最初は「どうしたら素材を活かせるだろうか…」と戸惑いもありましたが、漁網を切り分けロープ状にし、さらに手でほぐしていくうちに硬いロープがふわふわと綿のようになっていくことに気づいて。

「これは、可愛くなるかも!」と直感し、ときめきを感じるようなアート作品に仕上げました。量が莫大で途中ノイローゼになりかけましたけど(笑)、皆で最後までロープを解き切ったエピソードは思い出深いですね。

――スポーツやアパレル分野の企業とコラボレーションされていると伺いました。

しばたみなみさん:最初は制服メーカーさんからのご依頼が多かったのですが、スポーツ関係の企業にもお声がけいただくこともあります。

あるスポーツ関係の企業からは「あるスポーツ団体の応援グッズを再活用して作品をつくれないか?」というご相談があり、ファンの方が使っていた古いグッズを回収し、作品に取り入れるという取り組みを行いました。「ファンと作品を通じて交流したい」という企業の想いから、まずは応援グッズを集めるという接点を作り、後日ファンの方に作品を見に来てもらう、という流れを構築したのです。

そのため、ファンの方が作品を見たときに「あ、自分が使っていたグッズがここにある」と感じてもらえるよう、色やパーツの配置にも気を配って制作しました。こうしたプロセスが、企業とファンの新しいコミュニケーションのきっかけにつながっていると感じています。

 

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