【インタビュー記事】紐の端から命を吹き込む。ファイバーアーティスト・aya kurataさんのストーリー

【インタビュー記事】紐の端から命を吹き込む。ファイバーアーティスト・aya kurataさんのストーリー

ファイバーアーティスト・aya kurataさんは、ネイリストとして約10年間活動したのち、子育てによる休職をきっかけに植物と向き合う中で、「マクラメ」という表現に出会いました。現在は『ACTA+』のアーティストのひとりとしても活動しています。

制作で生まれる紐の“端材”や、風化してなお咲こうとする植物の姿など、日常や自然の中にある「終わり」と「始まり」のエネルギーに心を寄せ、「結び」を通してその世界を作品に表現しています。

捨てられるはずだった“端材”に新たな価値を吹き込む作品には、技法を超えた想いが込められています。

本記事では、aya kurataさんがマクラメに出会い、アーティストとして表現を深めていくまでのストーリーを伺いました。

子育てが転機に。植物が導いたマクラメとaya kurataさんの出会い

――まずは、aya kurataさんのこれまでの歩みを教えてください。

aya kurataさん:

私は現在、ファイバーアーティストとして活動しています。もともとはアート系のデザインを手がけるネイリストとして、約10年間活動していました。

子どもが生まれたことをきっかけに、ネイルの仕事をお休みし、その頃からもともと好きだった植物を自宅でたくさん育てるようになったのです。子どもに触れられないように、植物を壁や天井から吊るしたいと思ったときに出会ったのが、マクラメという技法でした。

当時は日本語でマクラメの情報がほとんどなかったので、海外の資料を頼りに独学で学び始めました。技術を身につけること自体が好きなので、自然とマクラメの技術を身につけました。

やがて、「自分でもマクラメを人に教えてみたい、魅力を広めてみたい」と思うようになり、マクラメ講師としての活動や、作品の出品にも携わるようになりました。ありがたいことに、NHKの番組などに出演させていただいたこともあります。

――『ACTA+』との出会いを教えてください。

aya kurataさん:

最初のきっかけは、Instagramだったと思います。実際にやりとりをしたのは、1年か2年ほど前のことです。『ACTA+』のアワード情報自体は以前から目にしていましたが、お話しするのはそのときが初めてでした。

その中で、「義務じゃなくて憧れにしたい」という『ACTA+』のコンセプトに、大変共鳴したのです。

ちょうどその頃、端材を取り入れながら活動する中で、「自分はどうあるべきか」とアーティストとしての表現や立ち位置などを深く考え始めていた時期でもありました。

そんなときに出会った『ACTA+』の考え方が「これからどのような方向に進みたいのか」を見つめ直すきっかけになり、参加を決めました。

 

役目を終えた紐が、新たな作品を紡ぐ。“結び”に込める創作への想い

――マクラメの創作活動の中で、アップサイクル(再利用)をしようと思ったきっかけを教えてください。

aya kurataさん:

マクラメの創作活動を続ける中で、どうしても出てきてしまう「切れ端」の存在に、ずっとモヤモヤを感じていたんです。マクラメは、ある程度の長さがないと結びにくく、短くなると「もう使えない」とされるのが常識だったんですね。

でも、そのたびに「捨てるために生んでいる」ような気がして、強い罪悪感がありました。

用や講師としての制作でも、ボツになった作品や、余った材料が積み上がっていき、「このままの形で創作を続けていていいのかな?」と、疑問を感じるようになったんです。

そこから、「短くなった紐をどう活かせるか」「別の形で使えないか」を考えるようになり、まずはマクラメ作品の装飾部分として取り入れるなど、小さな工夫から始めました。

そうした取り組みを通じて、本格的にアップサイクル作品へとシフトしていったのは、ここ最近のことですね。

――ものづくりに対する意識や感性は、昔からあったのでしょうか?

そうですね。振り返ると、母が着付けをしていて、子どもの頃には一緒に組紐を作ったこともあって。ミサンガや飾り結び、水引など、“結ぶ”という行為には、昔から親しんできたように思います。

裁縫が当たり前にある家庭だったので、手を動かして何かを作るというのは、特別なことではなかったんです。

一度は離れた時期もありましたが、大人になって自然と再び興味を持つようになりました。

 

風化の先に咲くもの。繊維が編み出す“時間”と“生命”の表現

――作品にはどのようなメッセージが込められていますか?

aya kurataさん:

私は、「時間の流れ」や「生命力」を意識して作品を創ることが多いですね。

風化していくものや、建物を飲み込む蔦など少しずつ侵食されていく植物の姿に、私は美しさや力強さを感じるんです。例えば、建物の隙間から芽を出す草木や、時間が止まったような廃墟の中にも、「まだ咲こうとする生命力」や「別の命の気配」が宿っている気がしています。

そうした、「終わりの中に残る生命力」を糸や紐といった繊維素材に重ね、作品として表現できれば、と制作しています。

――作品づくりの中で、素材との向き合い方で大切にしていることはありますか?

aya kurataさん:

もうひとつ大切にしているのが、「マイナスからプラスへの転換」です。

制作では、どうしても端材や短くなった紐、ボツになった素材など“マイナス”とされがちなものが出てきてしまいます。でも、それらをただ処分するのではなく、別の形で活かす“プラス”へとつなげていくことを考えるようになりました。

それから、ひとつひとつの「結び」にも、意味があります。

日本の伝統的な結びには「ほどけない」「縁を結ぶ」といった縁起の良い意味が込められているんですね。ときには、意図せず絡まってしまった紐が、結果としてきれいな形になることもあって。偶然の中から良いものが生まれるような、前向きな感覚も作品に込めたいと思っています。

そんなふうに、“マイナス”から“プラス”に行くような時間の流れそのものを、作品を通じて感じ取ってもらえたら嬉しいです。

 

「素材と対話しながら、結ぶ」ファイバーアートの制作

――作品を作る際に、どのような手順や技法を大切にしていますか?

aya kurataさん:

基本的には、インスピレーションに任せて作品を作ることが多いです。

大型の作品のときは、簡単なラフ画を描くこともありますが、あくまで「やりながら形にしていく」スタイルが自分には合っていると感じます。テーマにもよりますが、その場の空気感や素材の持ち味に任せて、流れのままに編み進めていく感覚ですね。

特に、端材を使う場合は偶然性が大きく関わっていて「今の長さではこの技法は使えないから、別の表現を試してみようかな」と、その都度素材との出会いから生まれる発想に任せて進めています。

――端材(紐の切れ端など)の長さや使い方を教えてください。

aya kurataさん:

端材の長さは、10cm程度から使えます。「もう使えないかな」と思われるような着物のほつれや糸の端っこも、あえて結ばずにそのまま垂らすような形で取り入れ、作品を仕上げています。

また、私は羊毛から糸を自分で紡ぐこともあって、そこに端材の紐を混ぜ込んで使うこともあります。いろいろな素材や色を混ぜることで、偶然生まれる色や自然なグラデーションが出てくるのも魅力のひとつですし、制作の過程自体が楽しいですね。作品には、ところどころにマクラメやほかの技法を取り入れることもあります。

――各作品は、独立したテーマで作られているのでしょうか?

aya kurataさん:

実は、すべてが同じコンセプトの“断片”なのです。

ひとつひとつの作品を見ると、テーマや雰囲気が異なり別の世界に感じられるかもしれません。けれど、私の中ではすべてがひとつの世界観の中に存在していて、その一部を切り取って表現しているような感覚なのです。

作品全体で1つの大きなコンセプトを表現するというよりは、例えば「ある場所では花が咲いている」「別の場所では風化が進んでいる」といったように、コンセプトの一部を切り取って形にしているイメージです。

それぞれに小さなテーマはありますが、根底にある世界観はつながっていると感じています。

つぼみ、根、風化の壁。自然から生まれる、創作のインスピレーション

――創作のアイデアやインスピレーションはどのようなものから得ていますか?

aya kurataさん:

インスピレーションは、日常の中で目にする植物や自然のものから得ることが多いですね。

例えば、小さな種やつぼみの形から作品のフォルムを思いついたり、植物の根っこやツルが伸びていく様子から、作品の構造や時間の流れを思い描いたりしています。特に、太い紐は「木の根っこ」に見立てて使うことが多く、大きな作品を作るときには、そうした自然の構造を意識して編んでいくことがあります。

また、風化した壁や廃墟、建物に植物が絡まり、そこに花が咲いているような、時間の経過とともに命が根づいていくイメージも大切な着想源のひとつですね。

「マクラメへ“別の風”を吹き込みたい」紐と向き合う、今後の挑戦

――今後挑戦したいアートの表現や、目指しているビジョンについて教えてください。

aya kurataさん:

これまではクラフトの講師として、制作をお伝えする機会もありましたが、最近は少しずつ、自分なりの表現や創作のスタイルに重心を移し始めています。

例えば、端材を活用したり、アート的な要素を取り入れたりしながら、マクラメに“別の風”を吹き込むようなものづくりに挑戦したいと思っています。今後は、日常に取り入れやすいプロダクトと、アート作品の両方を手がけながら、新しい考え方や視点を届けられたら嬉しいです。

最近では、ありがたいことに企業とのコラボレーションにもつながる機会が増えてきました。ハイブランド企画では、紐を使った飾り結びのお守りのようなアイテムを制作させていただいたこともあります。素材としての紐への関心が高まっている流れもあり、今後はよりアート寄りの表現として、この分野をさらに広げていけたらと感じています。

制作を通じて、自分自身が「面白い」と思える展開を、これからも楽しみながら追いかけていきたいです。

 

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