木彫からスタートし、透明樹脂や廃棄物などの異素材を組み合わせて、独自の表現を追求するアーティスト・西村卓さん。現在は『ACTA+』のアーティストとしても活動し、空間を彩る立体作品から日用品のような小物作品まで、幅広いアート作品を生み出しています。
「拾ったもの」や「もらったもの」といった偶然の素材との出会いをきっかけに、日常の物にひそむ“おもしろさ”をすくい上げる西村さんの感性は、企業と協働するワークショップにも活かされています。
今回は、西村さんが素材と出会い、表現を深めていった過程や制作の裏側にあるストーリーを伺いました。
木彫から廃棄物アートへ。公募をきっかけに『ACTA+』とつながる
――まずは、簡単に自己紹介をお願いします。
西村卓さん:
私は大学で彫刻を専攻し、その中でも木彫の研究室に所属していました。大学卒業後は大学教授の助手を務めながら、木を素材とした木彫の制作を続けていました。
――その後、木材以外にも廃棄物を素材とした作品を手がけるようになりますが、『ACTA+』との出会いについて教えてください。
西村卓さん:
2023年に『ACTA+』の公募展に応募したことが、最初のきっかけです。たまたまInstagramで『ACTA+』の公募情報を見かけて、「今の自分の制作スタイルにも合いそうだな」と思い、応募したのです。当時ちょうど、廃棄物を使ったアート作品が少しずつ注目されてきていた時期でもありました。
結果的にグランプリは取れませんでしたが、最終審査まで進むことができました。それをきっかけに『ACTA+』とのつながりが生まれ、現在は『ACTA+』のアーティストとして活動しています。
美大進学は偶然?「思いつきの進学」から広がったアートの道
――西村さんがアートの道に進んだきっかけを教えてください。
西村卓さん:
実は、子どもの頃から美術をやりたいという強い思いがあったわけではないんです。高校で進路を考えたとき「受験勉強をあまりせずに進学できそうだな」という理由で、美術系の専門学校を志望しました。
ただ、その話を親にしたときに「せっかくなら四年制大学にしてほしい」と言われて、美大を選ぶことにしたのです。私はそこまで深く考えていなかったんですが、親が「この子は美術の道に進みたいのだ」と思ったようで、私は「思いつきだった」とも言えなくなってしまって(笑)そのまま美大を目指し、一浪して入学しました。
――現在は樹脂など木材以外の素材も使って創作されていますよね。現在の創作に影響を受けた経験があれば教えてください。
西村卓さん:
大学卒業後に教授の助手をしていたんですが、その時期に学生たちが透明樹脂を使って作品を作っているのを見て、「こうやって扱うのか」と初めて知ったんです。学生の制作をサポートしながら横で学んでいくような感覚でしたね。
そこから自分でも樹脂を試すようになって、作品の表現が広がっていきました。
「これ、おもしろいな」からはじまる創作。ワークショップも“ひとつの作品”として
――作品にはどのようなテーマやメッセージが込められていますか?
西村卓さん:
作品ごとに強いメッセージを込めているわけではなくて「これ、おもしろいな」という感覚を大事にしています。最初からコンセプトをしっかり立てて取り組むというよりは、素材に触れ、湧いてきたインスピレーションで手を動かすことが多いですね。
小物作品などはテーマやコンセプトは決めすぎず、アートと日用品の中間のような感覚で作っています。そういった作品にあまり強い意味や想いを込めすぎると、かえって重くなってしまう気がするので。
一方で、大きな立体作品や『ACTA+』で展示したような空間性のある作品については、ある程度コンセプトやテーマを考えて制作します。作品の規模や用途によって、制作のスタンスを少しずつ変えている感じですね。
――作品の素材に「廃棄物」を使うようになったのはなぜでしょうか?
西村卓さん:
もともとは、木彫で出た端材を「どうにかしたい」という想いからです。今は、木材だけでなく樹脂と廃棄物などの素材を組み合わせて作る作品が多くなっています。
きっかけは、展示会や出展を重ねる中で、企業の方や作家仲間などが「うちの廃材、よければ使ってみて」と声をかけていただくことが増えてきたことでした。最初は「いいですよ」という軽い気持ちで受け取っていたのですが、まさかそれが今のメイン素材になるとは思っていませんでした。
――ワークショップも積極的に行われていますよね。作品作りと捉えていらっしゃるとか?
西村卓さん:
はい。ワークショップも「自分の作品」だと考えていて、普段の制作と同じ感覚で取り組んでいます。依頼を受けた企業にも「私=人件費」というより「作品を購入していただく」というイメージで対応してもらっています。
そのため、同じ内容のワークショップを他の場所で再現することはしていません。
ワークショップは、子どもや普段アートに触れる機会が少ない方と接する場として、普段の制作とは違った魅力があります。彫刻の世界では、制作とワークショップを切り離して考える人も多い印象ですが、私はあまり違いを感じていません。同じ「創作」として、楽しみながら取り組んでいますね。
素材からイメージし、手を動かす。感覚にゆだねた制作スタイル
――作品の素材選びや制作の進め方について教えてください。
西村卓さん:
私の作品は、透明樹脂の中にさまざまな素材を封じ込めて制作しています。木彫をしていたこともあり、はじめは木材の破片が主な素材でしたが、今では布切れやジーンズ、オーガンジー、塗装片、石、絵画の断片など多種多様な素材を使っていますね。以前、妻が服作りをしていたこともあり、着物や帯の端切れも取り入れています。
作品の形は、あらかじめ設計図を描いてから作るというより「やりながら考える」スタイルです。素材を見て「おもしろいな」と感じたら、そこから直感的に組み立てていきます。感覚に頼る部分が大きいですね。
拾ったもの、もらったもの。身近な素材と人とのつながりが創作のヒント
――創作のアイデアはどのようなものから得ていますか?
西村卓さん:
インスピレーションは、身近な素材や人とのつながりから湧いてくることが多いですね。
たとえば、制作中に出る木彫の端材を「これ、おもしろい形だな」と感じて使ってみたり、妻が服作りをしていた頃の着物や帯の端切れを「これも入れてみようかな」と思って取り入れてみたり。日常にある素材がアイデアの源になります。
また、展示会などで知り合った企業の方から提供いただいたレンガやアスファルト、石などの産業廃棄物もおもしろい素材として取り入れています。
インスピレーションのきっかけは、「拾ってきたから」「もらったから」「なんとなく入れてみたらおもしろそう」という感覚的なもので、手にした素材との偶然の出会いを楽しんでいますね。
「おもしろさ」を整理し、伝える。作家とデザイナーの視点で、企業の課題にも貢献
――今後、西村さんが挑戦したい表現や、目指しているビジョンについて教えてください。
西村卓さん:
最近は、チームやコミュニティの中で作品を制作することが増えており、その過程に価値を感じています。自分ひとりの発想や感覚だけではコントロールできない部分にこそ、予想外のアイデアから新たな価値が生まれることがあるのです。
私はものの「おもしろいところ」や「ちょっと変なところ」など、新たな価値や可能性を見出すのがアーティストの仕事だと考えています。そして、すでにある価値や課題を整理し、他者にも伝えやすくするのがデザイナーの仕事だと。
そういう意味で、私は「デザイナー寄りの作家」だと感じています。おもしろいと感じた要素を見つけ出し、それを整理して伝えられたら最強だなと思っていて。そのような表現ができる自分を目指しています。
また、ワークショップや企業とのコラボレーションも、私にとって重要な創作活動です。ワークショップは「ひとつの作品」として捉えていて、アートに関心のなかった人たちに、素材や廃棄物の新たな可能性を知ってもらうきっかけになります。さらに、企業が抱えている後継者不足や業界イメージの改善などの課題に、アートの視点から貢献したいですね。
今後もこうした活動を通じて、自分の表現も深めていけたらと考えています。