いけばな三大流派のひとつである「草月流(そうげつりゅう)」の一級師範であり、現代華道家として活動する大薗彩芳さん。
玩具メーカーやゲーム会社での「ものづくり」の経験を経て、現在は花以外の日用品や廃材といった多様な素材を用いて、その場所でしか再現しない「唯一無二性」のある作品を生み出しています。さらに、パブリックアートの領域でも活動の幅を広げ続けています。
本記事では、大薗さんが華道家を志した道のりと『ACTA+』との出会い、作品づくりにおけるこだわりと今後の展望についてお話を伺いました。
企業での「ものづくり」を経て、華道家へ。異素材表現に至るまでの道のり
――まずは、簡単に自己紹介をお願いします。
大薗さん:
私は現在、いけばなの草月流の一級師範で、華道家として活動しています。
大学卒業後に入社したのは、憧れであった大手の玩具メーカーです。特撮ヒーロー作品を中心とした玩具や雑貨の開発に携わっていて、1年目からその商品企画開発を担当させてもらいました。
その後、メガベンチャーのIT企業に転職し、事業開発のマネージャーとしてゲーム制作やメタバース関連の大型プロジェクトなどに多く携わりました。


△HOSEKI(パブリック・アート展「神秘の森」)
――会社員を約15年されてきたのですよね。そこから華道の道に進まれるきっかけがあったのでしょうか?
大薗さん:
明確な「きっかけ」があったというよりは、「ずっと狙っていた」という感覚に近いですね。3年から5年くらいは、チャンスがあれば生け花やアートだけで家庭を養いたいと考え、ビジネスマンと華道家の2軸で活動していたのです。
ただ、当時は私が理想とするような若手でいけばなのみで生活ができている方がほとんどおらず、先輩方にも相談できる環境でもなかったので、自分で茨の道を模索し続けていた時期がありました。最終的には、会社員としての収入と拮抗してきたタイミングで、華道家一本への転向を決めました。
もう一つ大きかったきっかけは、アウトプットのスピードです。玩具やゲームの開発は、完成するまでに半年から数年単位で時間がかかるのですが、華道やアートは、その場で形になる。その瞬間に生まれる爽快感には、魅力がありました。
華道では、「いけばな草月流」という流派に所属しています。私が生まれる前から母が草月流師範やいけばな作家として活動していたため、育ってきた環境には常にお花やアートが近くにありました。一般的にいけばなというと「花」だけを扱うイメージが強いと思うんですが、草月流では花だけでなく、枝や木など、花以外の「異素材」を使います。私自身も、異素材を使った表現が得意ですね。

△「神秘の森」で使用した素材は、イトーキ社の工場から出た、古いオフィスチェアの部品などの廃棄素材
――『ACTA+』との出会いについて、教えてください。
大薗さん:
最初のきっかけは、2022年に『ACTA+』さんが主催した公募展です。廃棄物を使った現代アートの公募「COIL Upcycle Art Contest 2022」の募集要項を取り寄せたことが始まりでした。自分の作風的にも合いそうだなと感じ、応募を検討していたのですが、そのときはタイミングが合わず、出展には至りませんでした。
その後、『ACTA+』の代表橋本さんとSNSで、何度かやり取りさせてもらっていましたが、その時点ではまだ直接お会いしたことはなかったんです。
初めてお会いしたのは、草月流の後輩である渡部さんの展示会です。場所は東京・二子玉川で開催されていて、生活圏だったこともあって立ち寄ったところ、『ACTA+』の橋本さんと初めてお会いしました。いろいろとお話しする中で意気投合し、現在につながっています。
作品制作の「初め」と「終わり」に宿る高揚感。創作に惹かれ続ける理由
――大薗さんが創作や華道に惹かれる理由を、教えてください。
大薗さん:
私はもともと、ものづくりが大好きなんです。
先述した通り、会社員時代も、玩具の開発やスマートフォンゲーム、メタバースといった分野で、商品開発や販売に関わってきました。振り返ると、ずっと「ものづくり」に関わってきたんですよね。
一方で、華道は幼い頃から身近な存在でした。社会人になってから、いけばな作家としていきいきと楽しそうに創作活動している母の影響もあり、あらためて華道の世界が視野に入り、華道に進むことを決めました。
――作品をつくる中で、どのような瞬間にやりがいや楽しさを感じますか?
大薗さん:
ずっと楽しいのですが、強いて言うなら作品づくりの「初め」と「終わり」です。
例えば、案件をいただいて「これをつくろう」と考え始める瞬間や、「こんな大きな企業と僕で作品がつくれるんだ」と感じるときのワクワクは大きいですね。
もう一つは、実際に現場で作品をつくり上げて、人の目に触れる瞬間です。形になって世の中に出ていくタイミングに、一番高揚感を感じます。

――華道を社会やビジネスと接続していく上で、どのような課題を感じていますか?
大薗さん:
そうですね。華道の世界は、お稽古事として続けている方が多い印象です。趣味が高じて取り組まれていて、ご自身で教室を開いている方もいらっしゃいます。
ただ、それをビジネスとして考えた場合、利益がかなり薄いのが実情です。
もちろん、さまざまな考え方がありますが、華道に加えて別の本業を持っている方が多いのが現状だと思います。実際に、華道で大きな利益を得る仕事になっているかというと、なかなか難しく、皆さん目指してはいるものの、実現が難しいケースが多いのではないでしょうか。
そうした状況の中で、『ACTA+』の橋本さんからさまざまなお声がけをいただけるのは、私たちとしても大変ありがたいと感じています。
その場所でしか成立しない表現。「唯一無二性」を追求する制作のこだわり
――制作において、大切にしていることやこだわりはありますか?
大薗さん:
作品の「唯一無二性」はとても大事にしていますね。
作品づくりは花だけでなく、日用品やその場所にあるものなど、さまざまな素材を組み合わせていきます。その土地の素材や、その企業で使われていたものを一つでも取り入れることで、その場所でしか成立しない作品になるんです。
例えば、京都のバームクーヘン屋さんの作品では生地を焼いた後の芯の棒を使いましたし、コンビニのカゴや商品などの日用品を使うこともありました。
また、作品を見たときに「自分事として感じてもらえること」も大切にしています。
皆さんの生活に密着した日用品や見慣れたものを使うことで、「これ何だろう?」とか「自分も使っていた」といったコミュニケーションが作品の前で自然に生まれるのも、好きなんです。
素材の扱い方にもこだわりがあります。日用品を素材に分解して使う方もいらっしゃいますが、私はできるだけそのままの形で使いたいと考えています。素材って切り刻んでしまうと、最終的には同じような素材に帰結してしまいます。そうすると、商品だった姿形が失われてしまうんですよね。
そのため、権利関係には注意を払いつつ、可能な限り商品そのものの形のままを使って制作しています。
――現場での制作について、印象的なエピソードがあれば教えてください。
大薗さん:
私の作品づくりは、アトリエで作った作品を納品するのではなく、基本的には現地に資材や花材を運び、その瞬間のその空間に合わせてつくるスタイルです。その場所や企業と一緒に作品をつくることに意義を感じています。
例えば、『ACTA+』さんとオリックス・ホテルマネジメント株式会社さんとの企画で、熱海の施設にて制作した作品が印象に残っています。水の中に作品をつくるような環境で、実際にはインフィニティプールのような場所でした。
制作中はずっと水の中に入っていて、一日中作業していました。膝くらいまでの長靴を履いて制作していたのですが、それでも長靴の中まで水が入ってしまうような状況でしたね。
大変な面もありましたが、そのぶん作品が完成したときは、達成感がありました。
閉じた文化から、ひらかれた表現へ。華道の未来
――では今後、大薗さんが挑戦していきたいことや、目指している方向性を教えてください。
大薗さん:
根本にあるのは「世の中に貢献したい」という思いです。
何十年か後に亡くなるときに、私の作品を見て感動したり心が揺さぶられたり、日本文化の良さに気づくきっかけになったりするなど、一人でも多くの方に良い影響を与えて死ねたらいいなと思っています。
生け花や華道の世界は、とにかく「閉じている」と感じていて。どこで展示をやっているのか一般の方には分からないですし、日本人でも生け花の展示に足を運ぶことは少ないと思います。
だからこそ、パブリックアートのような形が私は好きですね。これまで生け花や日本文化に触れたことのない人たちにアート作品や、花を生けている姿を見てもらうことも、私が華道をやっていく一つの意味なんじゃないかな、と思っているんです。
また、毎年ファッションの専門学校で特別講義をさせてもらっているのですが、若い世代は欧米への憧れが強く、日本文化についてはほとんど知らないという印象があります。西洋文化と東洋文化を比較し、日本文化をミックスした表現について話すと、「こんな文化があったんだ」と興味を持ってくれることも多いんです。
生け花の考え方や技術を活かした表現を、若い世代や海外の方にも届けていくことで、より多くの人に価値を感じてもらい、社会貢献していきたいと考えています。

――最後に、『ACTA+』との取り組みについて、今後どのように感じていますか。
大薗さん:
『ACTA+』さんの取り組みには、すごく共感しています。廃材を使った表現やビジネスに対して、見方によっては批判的な意見が出ることもあると思いますが、それでも続けていく価値があるものだと思っています。
ボランティアだけではなく、ビジネスとして成立させながら社会的な取り組みを続けている点は、とても意義のあることだと感じていますし、今後も一緒に活動の幅を広げていけたらと思っています。