2026年2月21日(土)から3月5日(木)に、東京ミッドタウン八重洲1Fガレリアにて開催された、パブリック・アート展「神秘の森」。都市の中心に廃棄物を独自の素材として活用したアート作品が展示され、多くの来場者が足を止め、その幻想的な空間で「廃棄物」や「循環」について思いを巡らせる様子が見られました。
本展は、株式会社ACTA PLUS(以下、『ACTA+』)が主催し、一般社団法人八重洲二丁目北地区エリアマネジメントとの共催のもと、複数企業の協賛を得て開催が実現。中でも、オフィス家具や空間づくりを手がける「株式会社イトーキ」は、『ACTA+』の活動が自社の考え方とも重なる取り組みであると感じ、スポンサードおよび素材提供という形でご参加いただきました。
今回は、株式会社イトーキの商品開発本部 プロダクト開発統括部 第1商品企画部 部長の橋本実さんに、スポンサードした背景や「神秘の森」を通じて感じたことについてお話を伺いました。

「働く」をデザインするオフィスづくり。イトーキが進めるサステナブルな取り組み
――まずは、イトーキさんの事業内容について教えてください。
橋本さん:
当社は1890年に創業し、『明日の「働く」を、デザインする。』をミッションステートメントに掲げている会社です。現在は、オフィス家具の製造・販売に加えて、オフィスの空間設計や研究、公共施設向け製品の製造・販売など、幅広い事業を展開しています。
私の部署である開発統括部の第一商品企画部では、椅子やテーブル、デスク、キャビネット、パーティション、ワゴンなど、オフィスで使われるさまざまな製品を手がけています。
――オフィス家具は回収やリサイクルも行われていると思うのですが、どのように廃棄処理するのでしょうか?
橋本さん:
当社では、オフィスのリニューアルや引越しなどで新しいオフィス家具を納品する際、古くなったものを引き取って適切に「産業廃棄物」として処理しています。
ただ、近年のオフィス家具メーカーの製品は、非常に強度が高く、長く使えるようにつくられているんですね。そのため、現在ではクリーニングしてリサイクル品として販売したり、レンタルに活用したりする流れも業界内で広がっています。
特にコロナ禍以降は、在宅ワークで個人の方がオフィスチェアを自宅で使う機会が増加し、「椅子の価値」や「価格」を実感する方が増えましたね。「この椅子、意外と高いぞ」って皆さん気づいたのです。
その結果、価格を抑えるために、オフィス家具のリサイクルやレンタルへの意識も高まってきたように感じています。
――その中で、イトーキさんでは、どのようなサステナブルな取り組みを行っているのでしょうか?
橋本さん:
例えば、椅子に使用されているウレタン素材は、細かくなるとマイクロプラスチック問題につながるので、以前からウレタンの使用量を減らす工夫を行ってきました。
そのほかにも、コーヒー豆のかすを活用した天板素材の研究や、他社さんと組んで卵の殻を使った素材開発などの取り組みも行っています。また、工場のある滋賀県では「ヨシ」と呼ばれる植物を刈り取って糸に加工し、ストールとして展開することにも取り組んでいます。
オフィス家具が幻想的なアートへ。「神秘の森」で感じた新たな価値
――今回、「神秘の森」にスポンサードしてくださった背景について教えてください。
橋本さん:
最初は、社内の営業サイドから「こういう取り組みをするので、材料などを協力してもらえないか」という話があったのがきっかけでした。
ただ、私たちがスポンサードした理由としては、『ACTA+』さんの活動が当社の考え方とも重なる取り組みである、という点が大きかったと思っています。
――実際に橋本さんが手がけられた製品が、作品の一部として使われていたそうですね。
橋本さん:
はい。一番印象的だったのは、東京ミッドタウン八重洲の入口近くに展示されていた大きなツリーの作品ですね。
そこに使われていた5本のヒトデみたいな形をした「椅子の脚部」のパーツが、私が15年くらい前に設計した製品だったんです。私は企画職の前は設計者だったので、それが現在も製品として販売されていて、さらに作品の一部になっていたというのは、かなり感慨深いものがありました。
実際に会場へ行ったとき、普段のオフィス家具ではあまり使わないような紫色に彩られていて、「これが使われていたんだ」と驚きましたね。
木材なども多く使われていましたが、そこに大胆な色彩が加わることで幻想的なアートに生まれ変わり、東京のど真ん中に展示されている光景は新鮮でした。
――社内では、どのような反応がありましたか?
橋本さん:
社員からは、「見てきたよ」「面白いね」といったポジティブな声がありました。
やはり、普段業務で扱っているものが、アート作品として展示されていることに、「このような形になるんだ」と驚きもあったと思います。
また、私たちメーカーとして、サーキュラーエコノミーへの関心を、通常のビジネスとは異なるアートという形で表現できたことに意義を感じています。


▲パブリック・アート展「神秘の森」展示作品
「HOSEKI」 アーティスト/大薗彩芳
人の心に強烈な印象を残す。アートが持つ「ネガティブをポジティブに変える力」
――廃材とアートを掛け合わせた「神秘の森」の展示を見て、どのように感じましたか?
橋本さん:
最初に『ACTA+』の皆さんとお話したときに、廃材に対するネガティブな印象を、180度ポジティブな印象に変換するために「廃材を憧れにする」という考え方を伺ったんですね。そこまで振り切った発想はあまりなかったと思い、素晴らしいなと感じました。そこに芸術を掛け合わせた発想も面白いなと。
芸術作品というのは、それ自体に機能性があるわけでも、日常品でもありませんが、存在するだけで、人の心に強烈なメッセージを残す力があると思っています。
私は大阪の万博公園の近くで育ったのですが、そこには日本一大きな芸術作品「太陽の塔」があります。あれだけ大きな作品が、何十年経った今でも残り続けていて、多くの人の記憶に刻まれている。その威力を感じながら育ってきたんです。
だからこそ、今回の「神秘の森」でも廃材を使った作品が「見る人にどのようなメッセージを伝えるのか、人の心にどのように機能するのか?」といった部分には期待していました。
――実際に会場では、宝探しのように「これ、椅子のパーツじゃない?」「これ木じゃなかった?」など来場者同士の会話が生まれていたのも印象的でしたよ。
橋本さん:
そうですね。作品を鑑賞するだけではなく、「これは何だろう?」と楽しみながらコミュニケーションが生まれていたのは、とても良かったなと感じています。

廃材を空間へ戻す。アートとのコラボレーションが生み出す、イトーキの新たな循環
――今後、サステナブルなものづくりにおいて、どのような方向性を目指していきたいと考えていますか?
橋本さん:
現在、分解しやすさや、リサイクルしやすさを前提にオフィス家具の企画・開発を少しずつ進めているところです。そういった取り組みを積み重ねながら、リサイクル率を上げていければと考えています。
最近では、大学や企業からも「こういう素材をリサイクル活用できないか?」といった相談をいただくことも増えています。オフィス家具は、電気系や半導体のような製品とは違って、身近にあるからこそ、リサイクルの発想につながりやすいんですよね。
最近当社が発売した「Act2」という椅子では、座面にウレタンを使わない構造にしたり、リサイクルしやすい素材を採用したりしています。
――設計段階から、リサイクルのしやすさを意識されているのですね。
橋本さん:
そうですね。
また、社内では「エコレベル」という独自の基準を設けていて、製品ごとに評価も行っています。一番上のランクは「ゴールド」なのですが、環境意識の高いお客様には「エコレベル・ゴールド」の製品をご提案するような取り組みも行っています。
「御社のエコレベルは、どういう基準なんですか?」と聞かれたときに、きちんと説明できるように可視化して、お客様に選んでいただきやすいようにしていますね。
――今後、『ACTA+』に期待していることや、一緒に取り組めそうだと感じていることはありますか?
橋本さん:
例えば、空間デザインの領域では、空間に置くアート作品をお客様へ提案するような取り組みも、今後はあり得るのではと思っています。クライアント企業から出た廃材を使って作品をつくり、その空間へ戻していくような取り組みです。
当社にもプロダクトデザイナーはいますが、「芸術家」という立場の人はいないので、そういったクリエイターとのコラボレーションの可能性を感じています。
芸術から広がるリサイクル意識。『ACTA+』に感じた世界への可能性
――最後に『ACTA+』への期待や、今後の可能性について感じていることを教えてください。
橋本さん:
『ACTA+』さんが「芸術」という切り口を持ってきたのは、本当に新しいなと思っています。
そこを起点に、リサイクルに対する意識を少しでも高めていく活動は、今後取り組んでいくべきことだと感じています。日本だけにとどまらず、世界へ向けても発信していける可能性があるのではないかなと感じますね。
日本が「こういうリサイクル意識を持った国なんだ」と示していければ、世界に誇れる日本のリサイクル文化の強みになっていくのではないでしょうか。また、そういったリサイクルの意識が広がりきっていない地域にも、日本発の取り組みとして広がっていく可能性はあると思っています。
当社も『明日の「働く」を、デザインする。』を掲げる企業として、人の感情やインスピレーションに働きかけるという視点も取り入れながら、今後もサステナブルな社会を模索していきます。
