【イベントレポート東京・神秘の森】都市に現れた、循環を体験するパブリック・アート展

【イベントレポート東京・神秘の森】都市に現れた、循環を体験するパブリック・アート展

都市の中心に現れた「神秘の森」。『ACTA+』が届けるパブリック・アート展 


2026年2月21日(土)〜3月5日(木)、東京ミッドタウン八重洲1Fガレリアにて、廃棄物を用いたパブリック・アート展「神秘の森」を株式会社ACTA PLUS(以下、『ACTA+』)が主催しました。

会場となった東京ミッドタウン八重洲は、日本を代表するビジネス街・東京駅前に位置する都市空間。神秘的な音楽が流れる中、都市の中心に突如現れ、廃棄物から生まれたアート作品によって構成された「森」は行き交う人々の足を止め、思わず奥へと進みたくなるような没入感を生み出していました。

『ACTA+』はこれまで、廃棄物アートを通じて、サスティナビリティを「正論」ではなく「憧れ」として社会に届けることを目指してきました。

今回の展示「神秘の森」のミッションは「サスティナビリティを“体験”として届け廃棄物を憧れとして心に残す」こと。環境問題を説明するのではなく、空間体験を通じて心に残す試みです。

 

では、なぜ今『ACTA+』は東京でこの展示を行うのでしょうか。

その背景には、日本がかつて持っていた「循環の文化」があります。江戸時代の都市では、資源を無駄なく使い切り、再び活かす循環の仕組みが社会に存在していました。

「神秘の森」は、かつての循環文化と未来のサステナブルな社会を静かにつなぐ試みでもあったのです。

 

 

江戸の知恵と未来が交差する「循環の物語」  

東京は、かつて江戸と呼ばれた都市です。

本企画「神秘の森」は、単なるアート展示の枠を超え、江戸文化の中心地であった八重洲を起点に、50年後・100年後の人と地球の営みを問い直す試みとして企画されました。

江戸の暮らしの中には、「直して使う」「繕って長く着る」といった循環の文化が自然と息づいていました。壊れた道具を修理し、古くなった衣服を仕立て直しながら使い続ける。そこには、単に無駄を出さないためだけではなく「ものと共に生きていく感覚」がありました。

 

一方で現代の社会では、大量生産・大量消費の仕組みの中で、多くのものが役目を終えると廃棄物として処理されていきます。

私たちが生み出したそれらの多くは、自然の循環の中に戻ることができない存在でもあります。『ACTA+』が取り組む廃棄物アートは、そうした「大地に戻れないもの」を、アートという媒体を通して新たな価値へと変え、未来へつなぎ直す試みです。

 

今回の展示「神秘の森」は、廃棄物を素材としたアート作品によって構成された「森」の回遊型インスタレーションとして展開されました。

来場者は、廃棄物から生み出された多様な形態の作品の間を、森の中を散策するように歩きながら展示空間を巡ります。作品や展示の随所には、立ち止まって考えたくなるような視点や問いがちりばめられており、廃棄物や循環、今後の人の営みについて思考を巡らせるきっかけを生み出します。

こうした「森」を巡る体験は、江戸から続く循環の文化と、未来のサステナブルな社会を静かにつなぎ直す時間でもあります。説明や正論として伝えるのではなく、空間体験を通して循環の感覚に気づくこと。「神秘の森」は、過去から未来へと続く循環の物語を、アートを通して体験する場として生まれたのです。

 

 

森を巡りながら出会うアート。「神秘の森」を彩った3名のアーティスト 

本展「神秘の森」では、廃棄物を素材とした作品が空間を構成し、来場者が森を巡るように歩きながら作品と出会う展示が展開されました。

ここでは「神秘の森」で展示され、廃棄物から新たな価値を生み出した3名のアーティストの作品を紹介します。

 

●大薗 彩芳さん | 作品名:『HOSEKI』

大薗さんは、いけばな三大流派の一つである草月流の一級師範。伝統的ないけばなの要素を分解し、自然と人工の美しさの融合に可能性を見出し、作品を制作する現代華道家です。


作品には、海岸で拾われた流木に加え、株式会社イトーキから提供されたオフィス家具の廃材(椅子の脚や肘掛けなど)が使用されています。廃棄されるはずだった無機質なパーツが、作品の中で新たに存在感を放っています。
グレーやシルバーといった工業的な色合いの素材は、紫や緑、赤といった鮮やかな色彩によって彩られ、宝石のように七色に輝くオブジェへと変化しています。作品は下からライトアップされることで、廃棄物の素材感がやわらかく浮かび上がり、神秘的な空間の中に佇んでいました。


●Yoko Ichikawaさん | 作品名:『Still Growing』

Yoko Ichikawaさんは、アジアやヨーロッパ各地で滞在制作を行い、土地の記憶や文化、自然との関わりをテーマに、インスタレーションやドローイングなどの表現で作品を発表している現代美術家・イラストレーターです。


作品には、株式会社イチマス田源から提供された着物の生地や端切れが使用されています。シルクやアクリルの生地に描かれた植物画に、手仕事の記憶が宿る着物の布を一枚一枚コラージュして形づくられています。使用された布は500枚以上。繊細な手作業の積み重ねによって豊かな質感が生み出されていました。


ガレリアを吹き抜ける風に合わせて作品の布がはためき、空間の中に幻想的な風景が広がっていました。

 

●青沼 優介さん | 作品名:『息を建てる 虫瞰』

青沼さんは、東京都立大学システムデザイン学部助教、武蔵野美術大学非常勤講師。たんぽぽの綿毛を用いた建築作品「息を建てる/都市を植える」で2018年東京ミッドタウンアートアワードのグランプリを受賞。その他、展覧会を多数行っているアーティストです。


作品には、八重洲周辺の再開発現場から出たコンクリートの瓦礫が素材として使用されています。無機質な印象を持つ瓦礫にたんぽぽの綿毛がそっとあしらわれることで、都市の破壊と再生というイメージが表現されています。


さらに作品には、鑑賞者自身が体験できる仕掛けも用意。青・緑・赤のフィルム越しにペンライトの光を当てることで、作品の色合いが変化し、見る人それぞれが異なる表情を発見できます。
鑑賞者によって新たな姿を発見できる、体験型の作品となっていました。

 

 

思わず足を止める「森」。子どもから観光客まで、多様な来場者が楽しむ展示空間  

都市のビジネス街の中に突然現れた「森」の空間は、人々に小さな驚きや関心を生み出していました。展示会場は東京駅からほど近い場所ということもあり、海外からの観光客などさまざまな人が立ち寄り、作品と向き合う光景が広がっていました。


展示空間では、子どもたちが作品の周りを楽しそうに走り回りながら、「きれいだね」「すごいね」と声を上げる様子も見られました。また、青沼優介さんの作品の前では、コンクリートの瓦礫の上にあしらわれた、たんぽぽの綿毛にペンライトの光を当てながら、「おもしろいね」と笑い合うカップルの姿も。作品の前に静かに立ち止まり、じっくりと眺めながら写真を撮る来場者の姿もありました。


一人で作品と向き合う来場者や子ども連れの家族、カップルなど、多様な来場者が作品を楽しみながら、「循環」というテーマにそれぞれが思いを巡らせる場となっていました。


【『ACTA+』橋本より】森の迷いの先に見えた、次の循環の入口  

今回の「神秘の森」は、廃棄物という存在が持つ可能性と、人が立ち止まり想像する余白を街の中に生み出した2週間でした。八重洲の交差点のすぐそばでは、仕事帰りの人や家族連れ、カップルまで、さまざまな人が足を止め、森のような空間に迷い込み、作品と向き合う風景が生まれました。

展示を終え、空になった会場を眺めながら、「この森で一番迷っていたのは自分自身だったのかもしれない」と感じています。そして、今回使った素材は「廃棄物」ではないということを確かに感じました。もしかすると、その呼び方自体を見直す必要があるのかもしれません。

「神秘の森」での迷いの先には、次の森の入口が確かに見えています。関わってくださったすべての皆さまに心から感謝いたします。

ここから『ACTA+』は、新しい旅を続けていきます。

 

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