【インタビュー記事】素材に刻まれた時間から、記憶をかたちにする。ルー・チーユンさんの作品世界

【インタビュー記事】素材に刻まれた時間から、記憶をかたちにする。ルー・チーユンさんの作品世界

台湾出身で、現在は日本を拠点に活動する彫刻家・インスタレーション作家のルー・チーユンさん。セメントやガラス、鏡、既製品など多様な素材を組み合わせたミクストメディア作品を手がけています。

ルー・チーユンさんが『ACTA+』と出会ったのは、日本橋で開催された公募展「ACTA+ ART AWARD 2024」がきっかけでした。今回開催された「銀座サスティナブルファッション&アート展」では、故郷の台湾の風景と、ルー・チーユンさんの経験や視点を交差させた新作を発表しています。

本記事では、ルー・チーユンさんのアーティストとしてのあゆみや作品制作の過程、そして出展作品に込めた想いについてお話を伺いました。

 

 

多様な素材を横断し、記憶をかたちにする。ルー・チーユンさんの表現   

──まずは、簡単に自己紹介をお願いします。

ルー・チーユンさん:
私は台湾出身で、現在は日本を拠点に活動している彫刻家・インスタレーション作家です。

セメントやガラス、鏡など、さまざまな素材を組み合わせたミクストメディア作品を制作しています。素材の質感や、そこに残された痕跡を手がかりにしながら、現代社会におけるアイデンティティや時間の重なりについて考えています。

近年では建築廃材を取り入れて、絵画と立体を横断する造形作品をつくっています。


──『ACTA+』との出会いは、公募展がきっかけだったそうですね。

ルー・チーユンさん:
はい。『ACTA+』さんと出会ったのは、日本橋で開催された公募展「ACTA+ ART AWARD 2024」への参加がきっかけでした。

当時、公募展をいろいろと調べていたのですが、年齢や国籍、キャリアなど、さまざまな条件があって応募できないものも多かったんです。私はアーティストとしてデビューしてから10年以上経っているので、若手向けの公募展には当てはまらないことも多くて。

その中で、『ACTA+』の公募展はテーマも含めて自分に合っていると感じて、応募しました。知り合いが以前探していたこともあって、印象に残っていたのです。


△ ACTA+ ART AWARD2024で審査員特別賞を受賞した作品「昨夜星辰」

 

──今回の「銀座サスティナブルファッション&アート展」では、どのような作品を出展されましたか?

ルー・チーユンさん:
今回発表したのは、『Mount Banpingー土、湯圓、看板、セメント工場』『Mount Banpingー山の稜線』の2作品です。

故郷の台湾(高雄)の風景をモチーフにしていて、街で拾い集めたスケートボードや建築廃材などを組み合わせてつくりました。素材に残っている傷や摩耗の跡から、その場所が持っている時間や記憶みたいなものを感じ取り、それを一つの風景のイメージで作品に表現しています。


 

既製品への違和感から生まれた決意。高校時代に見つけた「つくる理由」   


──ルー・チーユンさんは台湾ご出身とのことですが、ご経歴について教えてください。

ルー・チーユンさん:
私は台湾で生まれ育ちました。子どもの頃に1年だけ日本に住んでいたことがあります。小学校2年生から3年生の頃ですね。両親の仕事の関係で住んでいて、その後は再び台湾に戻りました。

それから日本に来たのは留学のタイミングで、2012年か2013年頃でした。以降はそのまま日本にいます。

私の両親は、二人ともアーティストなんです。特にアートについて教えてもらったわけではないのですが、友達や周りの人もアーティストが多い環境だったので、表現することは自然なことでした。


──では、アーティスト活動のきっかけは、どのようなものだったのでしょうか?

ルー・チーユンさん:
高校生のとき、進路をいろいろと考えたことがあったんです。デザインや絵を描くことは好きだったのですが、私は「ものをつくりたい」と思っていて。自分の部屋にある既製品も、自分で選んだものではあるけれど、「本当に自分のものではない」という感覚が急に出てきたんですよね。

それで、「じゃあ、私は何が欲しいんだろう?」と考え始めたときに、「私は作品をつくりたいんだ」と思いました。

今まで自分で作ったものを一番大事にしてきたし、やっぱり作品づくりをやりたいんだと、そのときに決心しました。

 

──その後の進路には、どのようにつながっていったのでしょうか。

ルー・チーユンさん:
高校卒業後は、国立台灣藝術大学美術学部の彫刻科に進学しました。今でも立体作品をつくることもありますが、どちらかというとインスタレーションがメインです。

体で感じられるような空間をつくりたいという思いがあって、そうした表現につながっているのかなと思います。台湾では修士課程まで修了して、その後2、3年活動したあと、東京藝術大学美術研究科大学院に進学しました。就職はしていなくて、アルバイトをしていました。

 


「頭の中で完成させてから、つくる」。ルー・チーユンさんの作品制作のプロセス 


──作品制作の中で、一番楽しいと感じる瞬間はいつですか?

ルー・チーユンさん:

作品が完成したときですね。

 

最初はすごくモヤモヤした発想から始まるんですけど、それが次第に具体的になっていき、頭の中で考えていたものが、目の前に現れる瞬間が一番嬉しいです。

 

私は、制作に入る前にプロセスまで全部考えてから手を動かすタイプなんです。どういう場面で何を足すかとか、細部まである程度イメージしてから一気につくります。

 

何ヶ月も考えていたものが形になったときに、「やっと出てきた!」という感覚がありますね。正直、完成したあとはあまり執着がなくて、展覧会に置いたらもう次の作品のことを考えています(笑)

 

──作品制作の進め方について、もう少し詳しく教えてください。

ルー・チーユンさん:

制作のプロセスを考えるときは、目をつぶると質感やバランスまで鮮明にイメージが浮かぶくらいまで考えます。特に立体作品は、最初にある程度サイズを決めておかないとつくれないんですよね。

 

インスタレーションが多いのは、体で感じられる空間をつくるのが好きだからです。

ただ、大きい作品はいきなりつくれないので、小さい作品をたくさん作って形を探ることもあります。例えば、デッサンをたくさん描いてから絵を描くように、 立体作品も小さいものを、複数つくります。「この形、少し変えたい」と思ったら、もう一回つくる。 そうしていくと、最後に一番いい形にたどりつきます。 毎回ではないのですが、小さい作品を先に作って置いておくと、後から別のアイデアを思いつくこともあって、それが結構いいんですよね。

 

制作期間は、少なくとも1ヶ月は必要です。うまくいかなかったり、材料が見つからなかったりすると、それ以上時間がかかるときもあります。


──素材はどのように選ばれているのでしょうか。

ルー・チーユンさん:

街で見つけることが多いですね。

 

インテリアや家具、建材など、生活の中にあるものから探して使っています。歩いているときに「これいいかも」と思ったら、写真を撮ったりメモしたりしています。

 

もともとアンティークが好きで、私が「いい」と思うものにはストーリー性が感じられるんです。例えば、古い木のおもちゃでも、誰かが触り続けたことで削れた跡があって、その理由を想像するのが楽しい。ワクワクするんです。ときめく、という感じでしょうか。

 

そうしたストーリーを感じられるものを使って、痕跡や色の意図を考えながら「触りたくなるような作品」をつくりたいです。同じ作品でも人によって見え方が違って、みんなが少しずつ異なる見方をする。そうしたズレも面白いなと思っています。

 

誰もが好きになるものはつくれないけれど、自分の気持ちをしっかり込めれば、何かしら響くものが、つくれるんじゃないかなと思っています。

 

 

「実はよく知らない故郷」と山の伝説が重なる。揺らぐアイデンティティから生まれた作品 


──「銀座サスティナブルファッション&アート展」に出展した作品について、詳しく教えてください。作品は、どのようなテーマから生まれているのでしょうか。

ルー・チーユンさん:
今回出展した作品は、私の出身地にある山の話がベースになっています。

その山には、いろんな伝説があるんですよね。でも、すべて本当かどうかは、わからなくて。もともとは、開発によって崩れた地形らしいのですが、それを説明するために、いろんな言い伝えが後から語られるようになったという説もあって。

そうして、人が理由を求めて物語をつくっていく感じが面白いなと思っています。


──なるほど。その山の伝説が、作品のテーマにつながっているのですね。

ルー・チーユンさん:
そうですね。実は、私はその街に長く住んでいたのに、あの山の正体をよく知らないんです。

11歳から18歳までその街に住んでいたのですが、学校と家の往復ばかりで、街のことはほとんど何も知らなくて。大人になってから「出身地なのに、なんで知らないの?」と言われることも多くて、自分でもうまく説明できない感覚があったんです。

でも、確かに自分の故郷です。その「知っているようで知らない」という、少し曖昧な感覚が山の伝説と重なる気がしていて。
そうした揺らいでいるアイデンティティを、今回の作品で表現しています。

最終的には、大きな空間のインスタレーションとして展開していきたいと考えています。ただ、構成がとても複雑なので、まずは一つひとつの作品を制作して展示してから考えていこうと思っています。

過去の時間と今の時間がクロスして、内的で私的な空間と外の公的な空間が同時に存在するようなインスタレーションを目指しています。


 

廃材から生まれる新しい循環。店舗との協働で空間を彩るコラボレーションを目指したい  

 

──今後取り組んでみたいことを教えてください。

ルー・チーユンさん:
お店とのコラボレーションをやってみたいです。

自分の作品は、お店に飾るのに向いていると思うんですよね。例えば、お店で出た廃材で作品をつくって空間に置き、一緒に何かできたら面白いなと思っています。

作品を購入してもらうことが目的じゃなくてもいいんです。私としては、新しい素材に出会えることが刺激になるし、お店側にとっても、楽しんでもらえる体験になるのではと思っています。

 

──素材を指定されるような制作にも、興味はありますか?

ルー・チーユンさん:
ぜひやってみたいですね。「この素材はどう?」と提案して制作するのも嬉しいです。

また『ACTA+』さんには、今回のように展示の機会をいただけるのはありがたいと思っています。

 

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