アーティストの寺口さんは、2019年から仏教や量子力学に着想を得た絵画や、廃材を活用した立体作品を数多く手がけています。クラブイベントからお寺での奉納、パリでの出展準備など多岐にわたり、国内外で表現を広げています。
廃材が持つ「ぬくもり」を作品に取り入れ、伝統や思想をふまえながらも「現代の人々に響く新しい表現」を追求し、人間のキャパシティーを超えたアートを目指している寺口さん。『ACTA+』との出会いを経て、その可能性をさらに広げています。
国内外で活動を重ねる中で、どのように独自の表現を育んできたのでしょうか。今回は寺口さんに、その創作の道のりや『ACTA+』との出会い、今後の展望を伺いました。
子ども時代の憧れはギター職人。ものづくりへの想いが創作活動の原点
――まずは、簡単に自己紹介をお願いします。
寺口さん:私は2019年から画家として活動を始め、大阪を拠点にしています。当時コロナの影響で失業し、それまで続けていたバンド活動も終了したことが大きな転機となりました。
作品は仏教や量子力学から得たインスピレーションをもとに、物質の最小単位である「波」を落とし込んだ作品づくりをしています。また、人工と自然の両面を持つ「廃材」にも強い魅力を感じており、廃材を活用した立体作品も多く制作しています。
作品の発表はライブペイントが中心で、クラブイベントからお寺での奉納まで、さまざまな場で活動中です。
最近の活動は、新宿で開催されたテレビ東京のイベント『テレ東SDGs』にて、出川哲郎さんをイメージした廃材アートを制作・展示しました。また、パリで出展するための抽象画も制作しました。

――もともと子どもの頃から、ものづくりへの関心は強かったのでしょうか。
寺口さん:はい。小さい頃から「ものを作る仕事」に憧れていました。最初に夢中になったのはギター製作の職人でしたね。テレビ番組『情熱大陸』で海外のギター職人が紹介されていて、その姿に強く心を動かされたんです。音楽を始める前から「作り手の世界」に惹かれていて、自分もいつかそんなふうになりたいと思っていました。
――『ACTA+』との出会いについても教えてください。
寺口さん:最初に知ったのは、Instagramで『ACTA+』のアワードを目にしたときでした。そのときは出展の機会を逃してしまったのですが、後にお声をかけていただき、現在はご一緒に活動しています。
「現代に響く新しい表現を」伝統と今をつなぐ、お寺でのライブペイントの挑戦
――お寺でのライブペイントって珍しいですよね。詳しく教えていただけますか。
寺口さん:お寺でのライブペイントは、老朽化して障子紙が剥がれた衝立(まじ切り)のリニューアルをきっかけにご依頼いただきました。花祭りのイベントでお寺を開放する際、その出し物の一つとしてライブペイントを行い、その後に奉納する形になったんです。
衝立にはもともと和紙が貼られ、和風の絵が描かれていました。リニューアルにあたっては、伝統的な図像をそのまま描くのではなく「現代の人々の心に響く表現」を意識しました。
お寺にある仏像や絵画は、建てられた当時の「最先端の表現」だったと思います。ただ、それは「今の伝え方ではないのでは?」と思い、現代に生きる人たちに刺さる作品を描くべきだと考えたんです。
その結果、仏教の思想を大切にしながらも、直接的な仏教に関するモチーフは描かずに、自分なりの解釈を取り入れて表現しました。
――『ACTA+』と活動するようになってから、どのような影響がありましたか。
寺口さん:私はギャラリーに所属していないフリーランスのアーティストなので、『ACTA+』さんを通じて、作品発表の場やオーダーのきっかけなどをいただけるのは本当に大きいことですね。
個人で活動していると、制作費や価格提示の面で悩むことが多いのですが、『ACTA+』さんが正規の価格で案件を振ってくださったことで、自信を持って活動を続けられるようになりました。そこから、より大きな案件や新しいチャレンジにもつながっており、大変感謝しています。
▲無印良品グランフロント大阪での展示(2025年)

▲オリックス・ホテルマネジメント保有施設での展示(2025年)
「無我の境地」から生まれる着想。人間の限界を超えたアート表現を目指す
――作品づくりでは、仏教や量子力学からインスピレーションを得ると聞きましたが、関心を持つようになったきっかけは何ですか?
寺口さん:きっかけは、絵を描いているときの没頭体験です。無心で手を動かしていると、気づけば時間が一瞬で過ぎて「あ、こんなに時間が経っていたんだ」と驚くことがありますよね。そのときの我を忘れる感覚は、仏教でいう「無我の境地」に近いのではないかと感じました。
真剣に時間を忘れるほどのめり込んだ作品に限って、出来上がった絵を見てから「自分について知ること」が多かったんです。 それは、仏教の禅問答に近いのかなと思いました。
そこから仏教について調べるようになり、お坊さんに尋ねてみたら「空海が約1200年前の書物の中で、物質を細かく分けていくと、最終的には光と波になると記している」と教えていただきました。これは量子力学にも通じる考え方だと気づいたんです。そこから、両方に強く惹かれるようになりましたね。
こうした思想的なマインドや空気感に触れて、それを絵として表現し、言語化できたときに大きな喜びを感じます。
――廃材を使った作品づくりもされていますよね。素材としての魅力はどんなところにあるのでしょうか?
寺口さん:廃材には「ぬくもりがある」と感じています。たとえば、ビンテージギターの傷や、海風にさらされたコンテナのサビを見ると、歩んできた歴史を想像するんです。人の手を経てきた痕跡や時間の積み重ねが見えてきて、ぬくもりを感じます。
作品を作るとき、そのような「自然の美学」って、新しく生み出したものでは到底かなわない魅力がやっぱりあると思うんですよね。 そうした魅力を作品に取り入れたいと思ったことが、廃材を活用し始めたきっかけかなと思います。
――最初に廃材を活用したきっかけは?
寺口さん:廃材を最初に使ったのは偶然でした。個展の会場がアクリル製品を作る工場で、「せっかくだからアクリル板を使ってみないか?」と勧められたのがきっかけです。そこで立体的な作品に挑戦してみたら、素材を組み合わせる面白さに気づき「もっといろんな素材を加えてみたい」と思うようになりました。その中で、一番取り入れやすかったのが廃材だったんです。
制作を続けるうちに、廃材には「助けられる感覚」があることにも気づきました。
私はフリーランスとして十分な訓練期間もないまま活動を始めて、抽象画が苦手で悩んでいた時期がありました。そのようなとき、廃材を組み合わせて立体作品にすることで、絵だけでは表現しきれない部分を補ってくれるように感じたんです。
――制作プロセスについても伺いたいです。具体的にはどのように作品を形にしていくのでしょうか。
寺口さん:具象画を描くときは、モチーフの配置をある程度頭の中で考えます。たとえば「この位置にこれを置こう」というように、最初の設計をイメージするんです。ただ、それ以上はあまり考え込みすぎないようにしていますね。抽象画の場合も同じで、「この23色を使おう」とか「今回はこういう雰囲気で」といったように、最初の段階でルールを作るんです。
パソコンでデザインを組み立てることもありますし、頭の中で構想を練ることもあります。妻がインテリアデザインをしているので、インテリアから着想を得ることもありますね。
作品づくりでも同じで、最初に色や雰囲気をある程度決めておくと、その方向性が持続しやすくなるんです。私自身、一番気持ちが乗ってくるのは、ある程度作品に対して「これはいいな」と思える瞬間なんですよね。そこから一気に拍車がかかっていきます。
――では、制作のプロセスで大切にしていることは何ですか?
寺口さん:大切にしているのは、最初にある程度、色や雰囲気など「きっかけ」を決めておくことです。完全に無心で進めてしまうと、途中で迷ってしまい、「全然よくならない」と感じて潰してしまうこともあるからです。
あとは、「余白」を用意して作品を作ります。
最初に描いていたイメージとはまったく違う方向へ進んでしまうこともありますが、逆にそのほうがテンションが上がるんです。自分の本質から作品が生まれた気がして。自分でも見たことがない、新しい自分に出会える瞬間が面白いですね。
「私」という人間のキャパシティーがあるとして、そこを飛び越えた先の表現を見たいんです。それは、アートの存在価値にもつながると思っています。人間という存在が「これだけのことができるんだ」っていう表現を提示することこそ、アーティストとしての最高の生きがいだと思うんですよね。
それを私が作品を通じて提供できたら、一番嬉しいなって思います。
「逆輸入的な発信で世界へ」ヨーロッパから学び、国内外に表現を届けたい
――では最後に、今後の展望や目標についても教えてください。
寺口さん:直近で考えているのは日本とオランダの二拠点生活で、ヨーロッパ圏で活動を広げることです。今年中に数日間、オランダへの下見を考えています。
というのも、私自身の作風は海外のアーティストから強く影響を受けていて、ヨーロッパ全体、特にイギリスのアーティストや音楽が好きなんです。ヨーロッパ圏には私の作品とイメージに近いものが多くて、インテリアや音楽などからインスピレーションを得ています。だからこそ、現地で直接刺激を受けたら、自分の作品もさらに新たな広がりが生まれるのではないかと感じていますね。
また、海外で活躍してから日本に「逆輸入的」に発信するほうが、結果的にアーティスト人生として面白く、評価の幅も広がるのではないかと思っています。
作品の表現面での目標としては、ここ半年間取り組んできた抽象画の技術をさらに磨き、抽象と具象をうまくミックスさせた新しい作品づくりや、自由な構図を考えることに挑戦したいですね。
今後も『ACTA+』さんと一緒に活動を続けながら、自分の表現を国内外に届けていきたいです。